第17話 巣
―隠家にて―
この家の照明やアマリが横たわる
良く理解はできなかったが、モローはあまり気にしないことにした。遠い昔に失われた技術がここでは生きているとうこと、そしてそれはモローが
だが、この技術は
自分たちの面倒を見てくれるハコは、食事も
ハコにはこういった行動が必要のようだ。こうすることで、ハコは元気でいられるらしい。
三日間、傷と治療で意識を失っていたアマリは、目覚めた日の夕方には痛みに耐えながらも話すことができるようになり、傷が痛むがそれ以外は何でもないとモローに告げるほどになっていた。ただ、自分の
五日目となると、
最初、自分の最も無防備で情けない姿をモローに見られたことで、怪我と手術で気が弱っていたアマリはその場で泣いてしまった。このまま消えてしまいたいとさえ思った。
「お互い様だ」
その彼女に対し、モローはそう言った。今まで聞いたことのない、柔らかな声だった。訳の分からぬ数本の管に身体を半ば
「モロー殿に迷惑かけ通しです。……それに
「俺がそうなった時、今度はお前が助けてくれ。ただし、俺の
そう言うと、モローは
(まるで、夫婦のような……、ていうか夫婦になってくれって言っているみたいじゃない)
そう言われた時、排泄している所を見られたり、自分の
アマリの目尻から涙が伝い落ち続けていく、モローは人差し指でそれを
自分で動ける様になるまでの三日間、モローはアマリの世話をし続けた。
―隠家にて―
なぜ、ここには「山の者」が襲いにこないのだろうとモローは疑問に思っていたが、それはすぐに分かった。ハコがというより、この
その
電撃の壁で倒れ、黒焦げとなった「山の者」は、生き残った「山の者」達に回収されるという。ハコに言わせると奴らの死体は奴らの
「山の者」は定期的に
それを聞いたモローは、そろそろ行動を始める時だと感じた。怪我を負ったアマリの状態は快方に《かいほう》向かっており、もう大丈夫だと思う
「
夕食を終え、家の中を歩けるようになったアマリと二人で
「私も
「俺一人で行く。お前はここで待っていてくれ」
「嫌です」
多少顔を
モローはアマリの言葉に
太陽はまだ沈み切っておらず、山の
「私も知る必要があります。ここで経験した事も
「ハコの事は
モローがそう答えた。
「なぜです、私がこうして生きているのは、モロー殿とハコ、そしてこの家があったからでは……。その事を報告する必要があります。信じられない治療法があると」
「だからだ、お前を助けたのはハコだ。そしてハコは、この世界の者ではないと思う。俺が持っていた武器と同じ世界に存在していたもののようだ。その技術を利用し使いこなす事など、我々は多分できない。ならば言わない方が良い」
そう言い、そして花が三重の円に
「ここが何だと思う」
「……さあ」
急に話題を代えてきたモローに
「ハコは昔、スズという女性とここで暮らしていたらしい」
「女性と、ですか」
「ああ、そして、たぶんここは、そのスズが眠っている場所だ。ハコはその人のために、こうして墓を造り、彼女のために花を育て守り続けているのだと思う」
スズの墓と
「スズという人は、ハコの
「違う、ハコは動くし
「……どういうことです、生き物じゃないって」
「そう思っただけだ。太陽の光を食事にする動物など聞いたことがない」
「では、
「からくり機械とでもいうものだろうな」
アマリは昔、歯車とばねなどを組み合わせて、滑らかに動く人形を両親と一緒に見たことがある。たしかその時、父親が人形を「からくり」と呼んでいた。あの物悲しい表情を浮かべた人形が動く
「それでも
と感傷的になったアマリは、会った事のないスズという女性を想うかのように、彼女の墓を見つめた。
「
そう言い、モローはその場にしゃがむと
「生き物ではないハコが、スズに言われたことをしているのなら、生きている私達も命ぜられた任を成し遂げねばならないのでは……」
アマリがそう言った。
「だから、俺がそれをやると言っている」
「私は足手まといですか」
そう沈んだ調子でアマリは、しゃがんだモローの太く筋肉が張っている首筋を見つめていた。
「違う、
「命を大事にしろ」といった彼の言葉に「死なせたくない」という
「しかし、それではモロー殿が」
彼を一人で向かわせるのが恐ろしかった。二度と会えなくなるのではという想いが被さってくるのだ。
「俺は大丈夫だ」
「嫌です」
とアマリが再び叫んだ、
「足手まといでも、連れて行ってください」
モローが振り向くと、夕日が彼の顔を赤く染めた。
「無理だ、それに今回は奴らと闘うつもりはない、巣がどのようなものか見るだけだ」
不安げに見上げてくるアマリを見つめながら、安心させるように薄く笑みを浮かべた。
「私が元気になってからでよろしいのではないですか」
「いや。もう少し良くなったら、アマツに、いやオスダにお前を連れ戻す。その前に奴らがどのような暮らしをしているかを知っておきたい」
倒しても倒しても
そしてエグに来て分かった事は、「山の者」が自分達のように農作物を作るとか、物を交換する
人と「山の者」は、まともに
「あいつらが侵入してきた事で、一つの国が
モローはそう言い、アマリの頭に手を乗せた。
「それはそうですけど……」
子ども扱いしてと、不満でもあるアマリだが、触れてくるモローの手が嬉しい。
「お前はお前の任務を果たせ、そのためには死んではいけない」
そう告げたモローに対し、触れられた事でアマリは身体の芯が
―巣―
早朝、「山の者」の発するうなり声が聞こえた。いつも鳥の声に満ちている周囲は、不自然に
「奴らがきた」
静かな口調で
「私も参ります」
「約束したろ」
そうなのだ、アマリはスズの墓を二人で見た後、またぞろ一緒に行くと言い出し、その夜、留守を守るということをモローに組み伏せられながら約束させられていた。彼女の顔にサッと
「まあ、待っていてくれ。必ず戻ってくる」
そうモローは言い、部屋の中で電撃の罠がある方向に向いているハコに振り向いた。
「状況はどうだ」
「きた、ひとつ、くる、あとに、たくさん、くる」
「扉を開けてくれ」
モローはくるりとアマリから背を向けると、ハコが開けた扉に歩き出した。その後姿をアマリは見て、彼が武器を携えていないことに気付いた。
「
そう言えば、自分の剣はどうしたのだろう、「山の者」に掴まり自分を捕まえている「山の者」の腕を
「そっちの剣も拾ってこよう」
こちらを振り向かずモローが答えた。視線の先は電撃の罠がある辺りをじっと見つめている。大気を
モローは
学習性もなく罠を
最後に死んだ小型の「山の者」を大型の「山の者」が
死んだ仲間を運ぶ大型の「山の者」は、担いでいる仲間の腕をちぎり口に運びながら進んでいる。その姿は空腹の余り採ってきた
ハコの家の襲撃を失敗した「山の者」達は、
彼らは一つか二つの命しか
何らかの
単純な指令を受けた「山の者」は、それを受けて
追跡は楽な物である。「山の者」は、自分達の後をモローが付けていることに全く気付いていない。周囲を警戒する事さえしない。
「山の者」一体一体に関してはそれほどの脅威をモローは思わない。ただ奴らは
今モローが居る位置は、アマツに通ずる洞窟の入り口よりもさらに川沿いに
吠え声に加えて、近くに滝でもあるのか、水が岩を叩く
樹木が突然に切れたことで、太陽に下に自分を
その
モローの周囲にも、捕食された兵士達の剣が
拾った剣を脇に構えながら、ここが「山の者」の巣であることは間違いないと確信した。彼らは数が多いため、殺害した者を食料にしてもたちまち「山の者」の数から飢えてしまう。そこで彼らは自分の同胞も餌としているようだった。
ハコの家を襲撃してきた「山の者」達は、白骨の山の上で輪になると、回収した仲間の死体を
「山の者」が
奴らは増え続けている。蜂や蟻に似た組織ならば、この巣のどこかに女王がいるはずで、巣にはあまりにも増えすぎた「山の者」がひしめいて見えることから、餌の
巣のある場所はエグとアマツを分けるどん詰まりの箇所で、巣の背後には奴らをしても
洞窟が発見された今、「山の者」の女王はアマツを
だが、逆もまたしかりだ。逆に洞窟を以前のように通行不能にすれば、アマツは当面、『山の者』からの襲撃を受けずに済むのではないか。それには本格的な「巣別れ」が始まる前に手を付けねばならない。
エグにいるのは我々だけだ、それにすぐさま行動に移れるのも我々だ。モローは自分らがそれをせざるを得ないことを認識した。
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