第2話 ちんちん魔法
「フィーグ、お前の魔力の才能には目を見張るものがあります」
15歳になる年、叔母が俺に言った。
「叔母上の教育の賜物にございます」
俺は深々と頭を下げ、その評価に礼を述べた。
魔力の才能、大いに結構だ。
魔力が高ければ高いほど、良い縁談が来るし、そして――生き残る可能性も高くなってくる。
少なくとも、俺は良い縁談が欲しい。
子爵や侯爵、伯爵と言った、スロート家よりも爵位のある女性に見染められたいものだ。
そうでなければ、この糞叔母の娘――従姉たちの誰かとこのまま結婚しなくてはならなくなる。
それでは何も変わらない。この糞叔母が君臨し続け、俺は従姉たちの性欲の捌け口、孕ませ棒として使われてやがて絞り殺されるだけだろう。
そんな人生はまっぴらごめんだからな。
だから地位のある御令嬢の婿となり、まずこの状況を脱するのだ。そのために、女に媚びる方法は従姉たちで磨いて来た。
嫁頼りの他力本願は卑怯だって? 弱い男の身で成り上がるには、手段を選んではいられないのだ。
だから、俺は陰で魔力の才能を磨いてきた。
魔力は、使えば使うほどその総量が増すと言う。
だが貴族の紳士たる俺は、男が魔法の訓練などはしたないと言う理由で魔法などほとんど使わせてもらえなかった。
武術、剣術、そして魔法。そういった戦う技術を磨くのは、女の特権だ。
男は、そういったスキルを磨くことは許されず、戦いになれば雑兵や肉壁として消費されるのみだ。
貴族であるならば、護身のために多少は紳士の嗜み程度に学ぶことも許されるが――そもそも大切な孕ませ棒にして、悪役令嬢のための魔力電池である男性紳士は戦場に出される事などほとんどない。
つまり魔法を使う機会の中々ない俺は、魔力を鍛える術がない――――
と、思うだろうが、それでは俺の人生設計は崩れてしまう。
だから俺は――
「お従姉様、魔法を教えてください。お従姉様たちを満足させたいのです」
そう、教えを乞うた。
習う魔法は攻撃魔法や治癒魔法――ではない。
「ありましたよね、おちんちんを大っきくする魔法……それを僕が自分で使えたら、お従姉様たちをもっともっと喜ばせてあげられると思うんです」
我ながら酷い言葉である。
その名の通り、男性生殖器を屹立させる魔法。この魔法を使えば、その気になっていなくても股間が勃起するのだ。
貴族令嬢は、好んでこの魔法を使う。淑女御用達の基礎魔法だ。
この魔法があれば、男たちの意思を無視して犯せるからだ。
「まあ」
従姉は笑う。
「なんて可愛い子なのかしら、フィーグは。いいわ、教えてあげる」
狙い通りだ。
こういった女は、自分で勃起魔法を使うよりも、男に勃起魔法を使わせる方を好む。
理由はひとつ、そちらのほうがそそるからだ。
下らない嗜好だが、利用させてもらう。
俺が犯される日々、しかしそのたびに俺が魔法を使えば……魔力は鍛えられていくだろう、そういう狙いであり、そしてそれは成功した。
まあ、その代償として、俺は齢15にして勃起不全、不能になってしまったのだが。
まあ、女たちからすれば、男がいくら凌辱調教の精神的外傷で不能になった所で、魔法ひとつでギンギンに勃つのだから全く持って問題にはならないのだが。
下らない方向に話はそれたが、ともかく俺の苦労の甲斐あって魔力の量はそれなりに強くなった。
「この魔力総量であれば、悪役令嬢の魂約者に選ばれる事も不可能ではありません」
その言葉に、俺はほくそ笑む。狙い通りだ。
「フィーグ、貴方を魔法学園に通わせてあげるわ。そこで悪役令嬢の魂約者の座を射止めなさい」
「仰せのままに、叔母様」
俺は恭しく頭を下げる。
悪役令嬢。
それはこのクルスファート王国が誇る最強の戦士たちだ。
強大なスキルと戦闘力を誇る一騎当千の淑女たち。
彼女たちの存在によってこの国は支えられている。
そして悪役令嬢の力の源が――魂約者と呼ばれる、男たちだ。
貴族の令嬢は、魔力の強い男子と契約することで≪悪役令嬢≫となる。
そして魂約者の魔力を電池として消費することで、強力なスキルを操るのだ。
使い捨ての電池扱いではあるが、悪役令嬢の魂約者となり、そして生き残れば地位と名誉が約束される。
紳士にとって、悪役令嬢の魂約者――伴侶となる事はステータスなのだ。
(まあ、なりたくもないが)
いくらステータスだと言っても、魂約者として魔力を消費され続ければやがて命すら落としかねない、苛酷なものだ。
おかげでこの国の貴族の男子平均寿命は40歳である。
何が“華は若く美しいうちに華麗に咲いて散る、それが紳士の本懐”だ。そんな死に方は、全力でお断りしたいものだが。
しかしそれでも、俺は悪役令嬢の魂約者にならないといけない。
この糞叔母を喜ばせるためでも、スロート家を盛り立てるためでもない。
この糞叔母の庇護――という名の支配――から抜け出すためにだ。
地位の高い悪役令嬢の魂約者となり、篭絡し、操り――そしてこの国を壊す。
「家を救っていただいた叔母様たちの為に。必ずや、悪役令嬢の魂約者となってみせましょう」
心にもない言葉を吐く。
正直に素直な言葉を話したのは、いつが最後だったろうか。全く、我ながら嘘吐きに育ったものだ。父上母上が見たら嘆くだろうな。
だけど俺は止まる気はない。止まれない。
父の教えてくれた
(待っていろ、悪役令嬢ども)
この国を壊すのはこの俺だ。
「俺がこの国の――破壊者にして支配者となる」
そんな野心を胸に秘めながら、俺は魔法学園に入学した。
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