第19話 千年ぶりの町

 うーん、千年ぶりの町だ!


 ボクとフィーグ君は町を歩く。


 千年前と意外とそんなに変わっていない。所々は科学技術が(無駄に)発達しているのに、よくある中世ファンタジーな感じだ。


「うーん、やっぱり自分の足で動き回るのって気持ちいいなあ! 若いころを思い出すよ!」


 今も肉体的にはピチピチの16歳だけど。


 しかし……。

 ボクは町を見る。何か少し違和感がある。

 そうか、これは……。


「男ばかりなんだね」


 町にいるのは男ばかりだ。よく見ると女もいない事は無いけど……。


「ここは普通の街だからな」


 フィーグ君が言う。


「普通の街?」

「女は全て例外を除いて全て貴族だからな。だいたい貴族街にいるんだよ」


 そうか。

 確かに千年前も貴族たちは貴族街やらに住んでたしね。


「まあ、仕事や男漁りに普通の街に来ることも結構あるけどな」


 そしてフィーグ君は言った。


「まずは腹ごしらえをしようか」

「うん、そうだね」


 そしてボクたちはすぐそこにあった食堂に入った。 テーブルに座るとすぐにウェイターさんがやってくる。


「何にいたしましょうか?」

「そうだね……」


 メニューをざっと見る。昔と大して変わっていない感じに見えた。


「そうだね……じゃあこのこのAランチで」


 ボクは適当に注文した。


「じゃあ俺も同じものを」


 少し待つとウェイターさんが料理を持って来る。

 Aランチはスープとパン、それにポークソテーだった。


「うーん、おいしそう! いただきま~……」


 次の瞬間。


 太った男性が飛んできて、ボクたちのテーブルに突っ込んできた。

 そして、当然と言うか案の定というか、盛大にテーブルがひっくり返り、ボクの料理が壁にぶちまけられる。


「ああ~っ!」


 ボクは叫ぶ。せっかくの食事があ!


「ひっ……ご、ごめんなさい!」


 そして吹っ飛んできた男性が怯えて声を上げる。


「店長!」


 その男性に向かってそう呼んだのは、ウェイターさんだった。

 そして。


「あーら、まあまあまあまあ。ちょっと触っただけで吹っ飛ぶとは、羽のように軽い豚はんですわ」


 店の外から一人の人物が入ってくる。

 豪華な羽扇子を扇ぎながら笑う、趣味の悪い女性だった。


「ひっ……! な、何度言われても……うちの店は、売りません!」


 店長は震えながらそう言う。


「はあ~……」


 女性はそれを聞いて大仰にため息をついた。


「男が女に向かってえらい立派な物言いですわなあ」

「……っ、いくら貴族であろうと、そのような無謀は……!」


 次の瞬間、店長の手が踏みつけられる。


「ぐわあっ!」

「許されるんですわ」


 女性は笑う。


「この世界はなあ、女性であることだけが全て、なんでも思い通りになるんですわ。それに加えて、私には圧倒的財力があるんですわ。

 地位とカネがあればもう無敵、なんでもできるんですわ。それがこの世界の常識なんですわ。

 だ・か・ら、この店をわざわざカネ出して買ってあげようという慈悲をありがたく頂戴しなさいと言ってるんですわ。お分かり? ねえ、お分かりになってますかしら? おーーーーほほほほほ!」


 下品な笑い声をあげる女性。


「で、でも……! この店は私が先代から受け継いだ店なんです、それが変わってしまうのは……」

「あら、安心してほしいんですわ。変わるどころか、更地にしてデパートにしてあげますわ」

「……! ならなおさら、絶対に……」


 次の瞬間、店長は蹴飛ばされ、壁に叩きつけられた。


「はあ、もうええんですわ。金でカタがつく話はここでおしまい、財布の緒は固くとも堪忍袋の緒は切れましたわ。

 貴族に逆らった不敬罪で処刑ですわ。

 私に逆らったばかりに全てを失うなんて不経済なことですわなあ、不敬罪だけに」


 そして彼女に付き従う女性たちが笑う。

 ……全然面白くない。


「全然面白くないんだけど」


 ボクはつい、そう言ってしまった。


「だいたい、ですわですわって言ってるけど、御嬢様言葉じゃなくて関西弁だよね」


 そのボクの言葉に、


「関西弁……? 西方訛りだろ」


 フィーグ君がそういう、そっかこの世界には関西とかなかったっけ。

 しかしそういう方言はあるんだね。ゲーム本編にはそういう関西弁キャラいなかったからなあ。


「アンタたち、陰口聞こえとるんですわ!」

「陰口じゃないよ」


 頭に青筋を浮かべて怒る相手に、ボクは言う。


「さっきから聞くに堪えない事ばかり。

 この時代の女の子って、本当に醜いのばかりなんだね」


 その言葉に。

 さらに青筋が浮かぶ相手。


「こ、このドサンピンがァ~~~ッ!!」


 そして彼女は手袋をボクの足元に叩きつける。

 手袋を投げるのは貴族の決闘の申し出の作法だ。


 だけど……。


「札束?」


 フィーグ君が言う。そう、手袋には札束が詰められていた。

 おそらく一万、いや二万エレガントはあるだろう。日本円に換算して二百万円といったところか。

 そしてこの女は、ニヤニヤとした顔でボクを見ている。


 ――なるほど、そういうことか。

 決闘とは形だけの茶番。この金で黙れという事なんだろう。


「……」


 ボクは黙ってその手袋を拾い、


「なんやて!?」


 中の札束を抜き取って、そのまま周囲に投げ捨てる。


「手袋だけ受け取っておくよ。

 ボクの銘は――」


 そしてボクは左薬指の指輪に魔力を流し込み、ドレスを装着する。


「叛逆令嬢、ユーリ・アーシア・ストーリア」


 その名乗りに、相手は顔を怒りにゆがめたあと、笑顔を作る。


「――ええ度胸ですわ。それの価値もわからんとは、貧乏人はお札も見た事無いんですわねぇ。

 後悔させたりますわ、Engage!」


 そして彼女もまた、ドレスを装着する。


 金色のひょうたんや、宝石がちりばめられた派手な衣装、豪華絢爛としか言いようのない彼女の戦闘服だ。ぶっちゃけ趣味が悪い。成金趣味だった。


「この富豪令嬢、ゼイニィ・ゲーバ・ナリーキンが!」


 そして、決闘が始まった。



 ボクたちは往来へと飛び出す。

 あのまま店内で戦うと店が壊れるからね。

 もっとも、そんなこと彼女は考えてもいないんだろうけどね。


「はあっ!」


 ボクとゼイニィの蹴りが交差する。


「くうっ!」

「ぬうっ!」


 それぞれ後方に大きく吹っ飛んだ。


「やりますわね、なかなか。

 ならばこれはどないなもんですわ!」


 彼女はスカートの中から武器を取り出す。

 それは巨大な機関銃だった。そして銃口はひょうたんだった。金色の。


「FIRE!」


 ゼイニィが引き金を引く。ボクはすんでで飛びのいて弾丸を回避する。

 地面に突き刺さったそれは……


「金貨……?」


 1000エレガント金貨だった。まさか金貨を撃ちだすなんて!


「ほーっほっほっほ!」


 富豪令嬢は続いて弾丸を、金貨を撃つ。


「くうっ!」


 今度は避けきれずにダメージが入る。

 そしてさらに続けて撃ち続ける。


 ……重い! 一発一発がかなりの威力がある。


「ほーっほっほっほ! これが金の力や、金さえあれば何でもできる何でも手に入る!

 王太子の魂約者の地位すら金で買えた!

 私は金の力であらゆる悪役令嬢を打ち倒し!

 この国を手中に収めるんですわ!

 さあ、さあさあさあさあ、お金様の力にひれ伏すがええんですわ~!」


 ひとしきり打ち切ったのか、富豪令嬢は銃を撃つ手を止める。

 もくもくと舞い上がる煙。手ごたえを感じて勝ち誇る富豪令嬢ゼイニィ・ゲーバ・ナリーキン。


 しかし――


「なっ!?」


 砂煙が晴れる。

 そこから現れたボクの姿は――


「無傷……!?」


 それどころか。


「積んで……いる!?」


 そう。

 撃ち込まれた金貨をボクは眼前に丁寧に積み上げていた。


「お金って言うのは」


 ボクは言う。


「大事にしないといけないんだよ。投げ捨てるものでも、ましてや誰かに投げつけるものでもない!」


 さっきばらまいてなかったっけ、とフィーグ君が言ってる気がするけどここは無視して置く。


「くっ……!」


 富豪令嬢は再び銃を構える。しかしボクの方が早い!


「お前が黄金の弾なら、ボクは白鋼はがねの刃!」


 ボクは地を蹴ってゼイニィに肉薄し、魔力を集中して光の剣を発生させる!

「はあああああああああああああああっ!!」


 一閃。


 ボクの攻撃は、富豪令嬢のドレスを破壊していた。


「クルスファート王立魔法学園校則第一条、ドレスを破壊された者は魂約破棄となる!」


 ――魂約破棄エンゲージブレイク


 これで富豪令嬢ゼイニィ・ゲーバ・ナリーキンは、その力と権力を失った。




「いただきまーす!」


 その後。

 ボクたちはようやく食事にありつけた。

 うん、運動した後のご飯は美味しいね。

 どうやらこの店も守れたみたいだし。


 しかし……。


「どうした?」

「改めて自分で見てさ、町を。思ってた以上にひどい世界になってるなって」


 悪役令嬢が悪役の名の通り、平民を……男の人たちを虐げている。

 あの世界の後、こんな世界になっていたという事実が、つらい。


「ああ、だからこそ……俺達が変えるんだよ」


 フィーグ君がそう言う。

 うん、そのと澱だ。


「うん、そうだね」


 ボクは、決意を新たにそう言った。




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