第20話 いざ、特訓へ
『令嬢スキル! シャーク・ニサワール!』
『なんのっ! うおおおおおっ!』
シャーク令嬢、撃破。
ドレス破壊により、魂約破棄。
『令嬢スキル! 淑女大噴火砲!』
『こいっ! どりゃあああっ!』
活火山令嬢、撃破。
ドレス破壊により、魂約破棄。
『令嬢スキル! デブリビーム!』
『いくぞっ! はあああああっ!!』
シャトル令嬢、撃破。
ドレス破壊により、魂約破棄。
『令嬢スキル! 百火繚乱!』
『このおっ! てりゃあああああっ!!』
花火令嬢、撃破。
ドレス破壊により、魂約破棄。
「――なるほど」
生徒会室にて、【七大罪】の一人、【怠惰】のアセディア、正義令嬢アリフィリア・ルル・ドンジャスティス伯爵令嬢が報告書を読みながら、納得の声を漏らした。
「ふん、新参者のくせに中々ではないか」
「ええ、中々に興味深い逸材ですね」
そうメガネをくいっと上げながら答えたのは、【嫉妬】のインヴィディア、機工令嬢ヴィクトリア・フランクリンシュタイン侯爵令嬢。
「うっわ、ヴィクちゃんに目ぇつけられたんだ、かーわいそ」
【強欲】のアワリティア、魔導令嬢アウレア・フォン・ホーエンハイツ公爵令嬢が嘲笑う。
「また改造とかするんでしょ」
「まだしませんよ。するにしても綿密なデータが取れた後でないと」
「後でならしちゃうんだ……」
その二人の会話に、
「今は会議中です。くだらぬ私語は慎みなさい」
【憤怒】のイラ、甲冑令嬢セセリス・ヴィム・アイアンゲイル伯爵令嬢がその兜の中から声を響かせる。
「はーい」
アウレアはそれ以上煽ることなく、くすくすと笑いながら大人しく引き下がった。
そして、ヴィクトリアは黙って映像に目を戻す。そこにはユーリの戦う姿が映されている。
「いずれにせよ、彼女の対応はどうするのです?」
それに答えたのは、【色欲】のルクスリア、天剣令嬢ツルギ・ムラサメ士爵令嬢だった。
「どうもこうもありますまい。我ら悪役令嬢の掟は強者必盛。強きものこそが強いのでござる」
その言葉に。
「強いものが強いのは当たり前です」
セセリアが静かに突っ込んだ。
「……む、失礼。まだこの国の言葉によく慣れておらぬゆえ」
彼女はそう言うと、咳払いをしてから改めて続けた。
「ともあれ、勝ち進めばいずれ我らのもとへと届くでござろう。その時が楽しみでござるな」
「え~? とっとと潰せばよくない? 出る杭はナントカってやつ」
「それでは愉しみが減るでござろう。拙者、めいんでぃっしゅは最後まで取っておく性分のゆえ」
「そして鳶に油揚げをかっさらわれるわけですね」
ヴィクトリアの言葉に、ツルギは「むぅ」と黙る。
その時だった。
「騒々しい。静かにせよ」
重々しく響いた声に、その場にいた全員がそちらを見る。そこに現れたのは一人の凛とした令嬢。 他の誰よりも堂々としたその佇まいは正しく強者。
弛緩していた空気を一気に引き締めるほどの威圧。だがそれも無理はない。彼女こそ、この場における最高権力者にして支配者。
【傲慢】のスペルビア、絶対令嬢エリーゼ・ウェイン・ルルドリッジ公爵令嬢。 その姿に皆が頭を下げ、一斉に跪く。
その光景を見ながらもエリーゼはまったく動じない。それどころか軽く首を回してから再び腰を下ろす。
「……その女が」
映像の中のユーリを見て、エリーゼは口を開く。
「はい、先日編入生として入ったばかりの、例の小娘でございます」
「そうか」
興味があるのかないのか。彼女はその傲慢な口調でそれだけ言うと黙り込む。そして、場を見回して言った。
「……一人居ないようだが」
その言葉に、ヴィクトリアが答える。
「……【暴食】のグラなら、実家に呼ばれているとか。なんでも、【花嫁修業】とかで」
それを聞いた瞬間、ぴくりと眉を動かすエリーゼだったが、何も言わなかった。代わりに「はっ」と笑って見せる。
「それは大変な事だ。同情するよ。まあ、あの犬ころにはちょうどよかろう。もっとも……ルルーディア家が何を企もうが、趨勢は変わらぬがな」
何が起きようとルルドリッジ公爵家が、いや……この自分が脅かされる事など微塵も無い。その絶対の自信。そしてそれを疑う令嬢などここにはいない。みな彼女の力を知っているからだ。
七大罪令嬢の頂点。未来の女王。
そんな彼女の言葉を誰も疑うことなどあり得なかった。
「……」
無言でスクリーンを見つめるエリーゼの瞳が妖しく光っていたことにさえ気付かぬままに。
◇
ユーリの戦績は素晴らしかった。
今の所、全戦全勝である。
そしてその甲斐あって、士爵から女爵に陞爵した。実に順調である。
「すっ、すごいです……ユーリ様」
アイネがそうユーリを褒める。
「まあね。ラクショーだったよ。一番強かったのってアイネちゃんだったし」
「実際、風紀委員として移住希望者の選定官を任されるほどだ、実力は折り紙付きという事なんだろうな」
俺も言う。もっとも、風紀委員会からは追放されてしまったようだが。
魂約破棄され悪役令嬢でなくなったとはいえ、たった一度の敗北で追放とか人材運用について何もわかっていないと思うが、まあその分俺に都合がいいので問題はない。むしろもっとやれという感じだ。
現にアイネはこうやって俺の友じ……手駒になった。悪役令嬢の力を失ったので戦力としては期待できないが、それは問題ない。
「ま、まぁ……はい、ありがとうございます……ほ、褒められるのも……嬉しいものですね」
こいつはいじめられてたからな。しかし褒める事で喜ぶならちょろいものだ。もっと褒めていい気分にさせてやるか。
そう思った時……。
ぐううううううううう。
地響きのような音がした。
というか、ユーリの腹の音だった。
「あ、あははは。さっきまで決闘だったからおなかすいちゃって……」
恥ずかしそうに笑うユーリ。俺はため息を吐くと言った。
「……仕方ない。食堂に行こう。あそこなら何かあるだろ」
俺達は三人で学食へと向かった。
◇
食堂に着くとそこには「本日レディースデイ」と記されていた。
訳すと、「今日は男に食わせるエサはねえ」という事である。よくある事だ。
「え、えーと……別のところにしよっか」
「いや、気にしなくていい」
俺は言う。
「慣れてるからな。それにロランたちが「最近女と行動しすぎだ」って言っててな、あいつらに付き合うよ」
「ああ、ロラン君たちが嫉妬?」
「? いや、俺を心配してくれてる」
「……あー」
ユーリは誤解しているようだ。そこらへんも千年前との感覚の差か。
ロランたちは俺がユーリやアイネに犯されたり調教されたり酷い目にあっていると思っている節がある。ちゃんと誤解はといておかないとな。
ちなみに俺はユーリたちとそう言う事はしていない。気が楽である。
そういうことで俺はユーリたちと別れたが、しかしどうするか。
正直な事を言えばロランは今日は風邪で休みなのだ。
「まあ、適当に暇をつぶすか。最近ご無沙汰だったしな……特訓」
俺は背伸びをしながら言う。
そう、特訓だ。
本来、男と言うものは料理や掃除洗濯、治癒魔法や補助魔法、そして様々な文化的な知識や技術を学び習得し、女性の役に立つものだとされている。
肉体を鍛えたり戦闘魔法を習得したりなどは男らしくない行為である。
くそくらえだバーカ。
しかしともあれ、空気を読める俺は表向きは男らしい控えめで貞淑な家庭的な趣味や技術を学びつつ、裏では特訓をしていた。
この世界をぶっ壊すためには力が必要だからな。
そのための秘密の訓練場が、学園敷地の外れの森にあるのだ。
部屋にいったん戻ってありあわせの食材で弁当を作り、そして森へと向かった。
そこに新たな出会いがある事など、この時の俺は……知るよしも無かった。
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