第18話 千年後の世界
乙女ゲーム、
魔法学園を舞台に令嬢達が恋と青春を繰り広げる人気ゲームだ。
そしてボクは――
そのゲームの悪役令嬢、ユーリ・アーシア・ストーリアに転生した。
転生の理由?
トラックに轢かれそうになった女の子を助けたら自分が轢かれて死んだ、という死に方だったよ。
転生女神、みたいなのには出会わなかったな。
そして気が付いたら転生……というか、前世の記憶が戻ったのが五歳の頃。
最初はびっくりしたよ。ここがあの大好きだった乙女ゲームの世界だったなんて。
そしてヒロインに転生じゃないのも良かった。だってボクの一番の推しはヒロインちゃんだったからね。
彼女の名前はアリスティーナ・リリット。通称アリス。
銀髪ロングヘア―で、碧眼でボクと同じ年齢なのにものすごく可愛いくてまるで天使のような愛らしさだ。
彼女は将来、聖女となって国を救うのがゲームのシナリオだ。
一方、このボクこと悪役令嬢、ユーリ・アーシア・ストーリアは、アリスを虐めて婚約者である王太子に婚約破棄され破滅し国外追放。そして魔族に魂を売り王国の敵となって倒されて死ぬ運命である。
うん、そんなの絶対ゴメンだ。
だからボクは、攻略対象の男子たちはほっといて、ヒロインのアリスや他の女の子たちと仲良くなり、破滅の運命を回避する事にしたんだ。
何故かやってもないアリスいじめの罪で婚約破棄はされたけど、それでもアリスとは親友になれて、このまま魔族ルートは回避しつつ世界を救ってハッピーエンド!
……と、なるはずだった。
でもそうは……ならなかった。
ならなかったんだよ、ボクは。
だから――このお話はこれでおしまいなんだ。
◇
「……!」
ボクは目が覚めた。汗がびっしょりだ。
うう、まだボクの服って無いのになあ。フィーグ君が「女の子にパシらされて服を買わされてる情けない男子」という演技で買ってきてくれるって言ってたけど。
うん、非常に申し訳ない。ボクの前世や、1000年前のこの国の感覚なら、男が女物の服を買ってくるなんてとても恥ずかしく情けない事だもん。
そう――今のこの世界、この国は昔とは違う。
ボクが戦いに負けて石にされてから千年。
この世界は変わっていた。もうボクの知っているゲームの世界なんかじゃなかったんだ。
文明レベル的にはぱっと見、中世ファンタジーっぽい世界観のままだけど……
「おーほほほほ! このロケット令嬢にかかれば遅刻なんてしませんわー!」
窓から聞こえる声。見ると手足がロケットになった御令嬢が高笑いをあげながら空を飛んでいる。
「ヒャッハー!どけどけオラァ―! 夜露死苦令嬢様のお通りだぁ―!」
そしてその下の道路では、暴走族のような出で立ちの御令嬢がものすっごいバイクで爆走している。
……なんだこの世界。
文明レベルがちぐはぐになっているというか、いや文明レベルって話じゃないような。
僕の知っているFRAULEIN WALTZの世界は、もっとこうキラキラした乙女の世界だったんだけど。
まあそれはいい。
一番変わったのは、この国を女性が支配している事だ。
それも、国のトップを女性が占めている……とかではない。
女性に生まれるだけで貴族であり、一部の魔力持ちの男子以外は、男はみな平民か奴隷である、という狂った世界になっている。
いやだって、どう考えてもおかしいじゃん。
だいたい平均的に男女比は半々なのに、その女性全員が貴族って。もう破綻している、国が成り立つはずがない。
それでも千年間続いているのは、この世界が魔法も奇跡もあるファンタジー世界だからだろうか。うん、ボクは政治にも社会にもあまり詳しい方じゃないからよくわからないけど、それでもやっぱりおかしいと思う。
おかげで女たちは威張りまくって、そして男を性の玩具のように弄んでいる。
性的な貞操観念までもはや逆転しちゃってる。
石にされている間にボクは、最初は何もできなかったけど、魔力を練って色々と試している間に、簡単なテレパシーみたいなことは出来るようになって、少しなら外の世界を知る事が出来た。
それでもやっぱり、あらためてフィーグ君からこの時代のことを聞いたら頭が痛くなったよ。
あ、ちなみにそのテレパシーは石にされてて五感が消えてたから使えたみたいで、今はもう使えないけど。
ともかく、そんな世界になって人々も変わっている。
女は傲慢で横暴になり、男はひ弱で繊細、従順になっている。
ボクからとたらもうわけのわからない世界だけど。今はこれが普通なんだ。
「くそ、なんで俺が女物の服を買わされたあげく押しつけられないといけないんだ、女装でもしろっていうのか」
そう聞こえよがしな声で喋りながら部屋に入ってきたのは、この部屋の主、フィーグ君だ。
彼はそう文句を言いながら扉を閉めると、ふう、とため息をつく。
「ごめんね、フィーグ君」
「気にするな。今のはあくまでも対外的の、念のためだ」
フィーグ君はそう言って笑う。
「この部屋には俺の防音結界魔法があるから大丈夫だけどな」
ちなみにその魔法は、部屋で女の子達への悪口を叫ぶためのものらしい。
うん、ストレスたまってるんだね。
そう思いながらボクは包みを受け取る。
かわいらしい服だった。
「うわ、センスあるじゃんフィーグ君」
「いや、俺は女の服なんてよくわからないからな、顔真っ赤にして店員に「ご、ごめんなさいすみません、女性が喜びそうな服を、えっ、選んでください……」と媚びてやった」
「そ、そうなんだ……」
「どれだけ虐げられて来たと思っている、女性を喜ばせて媚びる手腕手管ならお手の物さ」
フィーグ君はそう言って遠い目をした。苦労……してるんだね……。
「うわあ」
着替えたボクは鏡を見る。うん、中々良いと思う。
「どうかな、フィーグ君」
「うん、いいと思う。しかし……」
彼はボクをまじまじと見る。うう、そんなに見られると恥ずかしい……
「それだ」
「えっ、何が」
「その恥じらった姿だ! そこらの女にはないその仕草……それが俺の魂を震わせる……」
「う、うん……よほど大変だったんだね」
つまりフィーグ君は羞恥萌えらしい。
まあボクからしたら普通の性癖だと思う。というかボクだって女の子が恥ずかしがってる姿は普通に萌える。
「ともかく、これで活動しやすくなりそうだよ」
男物の服を着るか、あるいは戦闘用ドレス姿で動き回るかのニ択だったからなあ。
ともあれこれで、ニート引きこもり状態から脱出できる訳だ。千年も動けなかったスーパー強制引きこもり状態から脱出できたし、色々と動き回りたい。
というわけで……。
「さっそく散歩しよっか、フィーグ君!」
ボクは笑顔でそう言った。
ああウズウズする!
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