第29話 全てが敵となる
「ふ……ふは、ははははははは!」
ペイルが笑う。こいつ、まだそんな余裕があるのか。
「こ……これで勝ったつもりか! オマエたちはただ暴力に訴えたにすぎない! だけどなあ、オマエらはどちらもただの女爵家! そこの処刑貴族に至っては賎爵だ! だがルルーディア家は侯爵だ! そして金もある! さっきのクソメイド達を見ただろう、みんなルルーディア家が金と権力で破産破滅に追い込んだ家の者たちさ!
ククク、僕は必ずお前らを潰す、潰してやる! そして僕は、男の栄華を取り戻すのさ! ぎゃーははははは!」
ペイルは狂気を孕んだ顔で笑う。
「ああそうか、確かにそれは困る。家の格式と金、それにはただの暴力では勝てないな」
「そうだろう、だから……」
そのペイルの言葉を遮るように、俺は懐から一つのアーティファクトを取り出す。
それは小さな板のようなもの。
このアーティファクトは、『
「な……それは……」
ペイルが驚きの声を上げる。
「そうだ」
俺はそのアーティファクトを起動させる。
『君はこの王国をどう思っている?』
『……どうとは? 良い国だと思うけど』
『おいおい。今さら諧謔するなよ。率直に言って、クズみたいな国だろう?
女に生まれただけで貴族、男に生まれただけで女のオモチャ。破綻している、狂っている、イカれてる。なあ、そうだろう? 君もそう思うだろう?』
「……」
そこから響いて来たのは、俺とペイルの会話だった。
『わが妹には、絶対令嬢を倒して七大罪令嬢の頂点に君臨し、王太子の妻となり女王として君臨してもらう。よしんばそれが無理でも、高い地位につければそれだけ国を操りやすくなる。君も知っての通り、この国は腐りきっている。それを正しい方向へ導くのが貴族たる僕の――真の支配者たる男の務めだろう?』
「な……っ、やめ……ろっ、ぐっ」
俺から録音石を取り上げようとして、しかしダメージが強すぎてよろけて倒れるペイル。
「お前の出方次第では、これを生徒会に提出するのを待ってやってもいい」
俺は笑ってペイルを見下ろす。
「な……脅す気か、卑怯者! お前に男としての慎ましさはないのか!」
ねえよそんなもん。
ていうかお前が言うな。さっき俺を脅そうとしただろうに。自分に都合が悪くなったら男らしいおしとやかさだとかを言い訳にするとか本当に腐ってるなこいつ。
「まあ、国家反逆罪で極刑は免れないだろうな、ただでさえ立場が低い男が国家転覆を企んでいるんだ。ルルーディア家も先が無いな。さすがに男のやったこととはいえ監督不行届なのは明白、下手すれば爵位の取り潰しで奴隷堕ちか、国外追放か……まあお前は極刑だろうけどな。
そう考えると、ルルーディア家の女性にこれを提出して恩を売るのもアリ、か。まあそっちでもお前は極刑かな」
「あ……ああ、な……」
ペイルの顔が蒼白になる。
「だが安心しろ。俺とお前は同じ男じゃぁないか。お前が俺にとって有益でいてくれる限り、俺はお前の不利益になるようなことはしないさ。俺たちは友人だからな。そうだろう? ペイル・ディム・ルルーディア侯爵子息」
俺はありったけの親愛の情を込めて、ペイルの肩に手を置き、耳元でささやく。
後ろでうわあ、とユーリが言っている声が聞こえたが、無視しておく。これは勝者の権利だ。侯爵家の弱みを握れるのは大きい。
「わ、わかった……わかりました……」
うなだれるペイルに俺は優しく言う。
「敬語はいらないよ、普通にタメ口でいい。俺たちは友人じゃないか」
その言葉に、ペイルは絶望と諦観の表情を浮かべ、うなだれたのだった。
◇
「それで結局、どんだけ絞ったの」
「絞るだなんて人聞き悪いな」
戻った寮の部屋でユーリが聞いてくる。
「ひとまずはフェンリやメイドたちを解放させた。借金で縛ってメイドにしてた女は借金チャラにした上でな」
「ふーん。なんかさ、フィーグ君って女が嫌いだって言う割には優しいよね、女の子に対して」
「そんなことはないさ。媚びや恩を売っておけば後々役に立つからやっているだけだ。全ては投資だよ」
「ふーん」
ユーリはニヤニヤと笑みを浮かべている。
くそ、なんかむかつくな。俺の事をいい奴と勘違いしているだろう。まあその勘違いは使えるので黙っておくが。
「それでフェンリちゃんは……」
「ああ、あいつももう自由の身だ。フェンリは異種族狩り、奴隷狩りの被害者だからな。ルルーディア家のとの養子縁組が破棄された今、もうここに留まる理由も無い。
フェンリの氏族……ルーガルー族だったか。
その一族は生き残りたちがいるというからな。そこに帰ったんだろうさ」
あの戦闘力は惜しいが、もはや悪役令嬢でも貴族でもない彼女に用はない。
用なしはどこへでも好きなところに行くがいいさ。
「ふーん」
「……たからなんだよその顔は」
「別に―? でもさフィーグ君。君って女の子の事、まだよくわかってないなって」
「? どういうことだ?」
「千年前も今も、女の子って意外と本質は変わってないもんだよ」
そう言いながら、ユーリは窓際に歩いていき、そして窓を開ける。
次の瞬間。
「見つけたーーーーーー!!」
そう叫びながら弾丸のように、いや大砲のように飛び込んで来る何か……いや、少女。
それは……。
「フェンリ!?」
「はいです、御主人様!」
いや、ちょっと待て。
「御主人様って何だ、フェンリ」
俺のツッコミに、フェンリは胸を張って言う。
「フェンリは悔しいですが、あいつらに負けて奴隷になりました。たとえ相手がどんな手段を使ったとしても、多勢に無勢たせったとしても、戦いは戦い。勝ちは勝ちで負けは負けなのです」
「ああ」
「そして、あの男を倒したご主人様は、あいつより強い! のです!」
「いや、それはユーリの力があってこそだし」
「問題ないのです!」
問題ないらしい。
「仲間の力を使っても、罠や作戦を使っても、とにかく勝ったものが強い! それが一族の掟なのです!」
随分とフレキシブルな一族のようである。
「だから、フィーグ・ラン・スロートはフェンリのご主人様なのです!!」
「いやその理屈はおかしい」
そもそも俺は奴隷とかそういうのは大嫌いなのだ。一方的に支配されるのが大嫌いな俺は、同じく一方的に支配するというのも嫌いである。女どもと同じレベルに堕ちるのは遠慮したい。
「諦めた方がいいよー。女の子ってさ、一度好きになったら諦めない子多いから。フェンリちゃんもそのタイプだし」
ユーリがため息をつきながら言って来る。おいこら見捨てるな。
「このフェンリ・ルーガルー、御主人様に一生ついていくのです!」
フェンリは満面の笑顔で言った。
……どうすんだ、これ。
まったく。
◇
「フェンリ・ルルーディアが倒された、だと?」
生徒会はその事実に激震した。
学園最強と名高い七人の悪役令嬢、七大罪。
その一角が崩されたのだ。大事件である。
「はい。例の転校生、ユーリ・アーシア・ストーリアとの決闘によって
……」
「ふむ」
【怠惰】のアセディア、正義令嬢アリフィリア・ルル・ドンジャスティスは考える。
「例の転校生……か」
かつての最初の悪役令嬢と同じ名を持つ少女。
現れてすぐに鎌鼬令嬢を決闘で下し、破竹の勢いで進撃を続けている悪役令嬢だ。
「いやはや、びっくり仰天、驚いたでござるな」
そう声をあげるのは、【色欲】のルクスリア、天剣令嬢ツルギ・ムラサメ。
「あの者を打ち倒すとは、ぜひとも剣を交えて見たいものでござる」
「本当に驚きました。しかしどうするのですか? フェンリさんが倒されただけでなく、魂約破棄となった以上は……」
【嫉妬】のインヴィディア、聞こう令嬢ヴィクトリア・フランクリンシュタインが口を開く。
その言葉に対し、くすくすと笑いながら【強欲】のアワリティア、魔導令嬢アウレア・フォン・ホーエンハイツが言った。
「そうだねー、七大罪の座がひとつ開いたね。例年通りにそのユーリちゃんが【暴食】の称号を継いで七大罪に?」
その問いに対し答えたのは、【憤怒】のイラ、甲冑令嬢セセリス・ヴィム・アイアンゲイル。
「そうなるでしょう。力を示したのですから」
だが……。
「それは認めぬ」
有無を言わせない口調でそう言い放ったのは、【傲慢】のスペルビア、絶対令嬢。
エリーゼ・ウェイン・ルルドリッジその人であった。
「何故……」
「男だ」
アセディアの問いに、エリーゼは即答する。
「男……とはどういう」
「あの小娘は、神聖なる決闘に男の助力を持ち込んだ。神聖なる決闘を汚す行為だ。七大罪に相応しくはない。ましてや、王太子殿下の魂約者ですらない女に、その資格があろうものか」
「しかし……クルスファート王立学園校則第四条補足、決闘には魂約者も同席し戦う事は許される……とありますが」
アセディアは言う。それが
だが。
「校則など捨ておけ。私こそが法だ。
それとも私に歯向かうか? 正義令嬢アリフィリア・ルル・ドンジャスティス」
「……っ」
エリーゼが放つ強力な魔力の圧に、アセディアは頭を下げる。
エリーゼは周囲を見回し、皆が賛同したことを確認すると、号令を出した。
「叛逆令嬢ユーリ・アーシア・ストーリアの首に賞金をかけろ。彼女を倒した者には百万エレガントと、爵位の陞爵。そして、七大罪令嬢【暴食】の地位を授ける、とな」
この瞬間。
学園の全ての悪役令嬢が、ユーリの敵となった。
悪役令嬢大戦~底辺貴族の俺が悪役令嬢達を食い物にして貞操逆転女尊男卑世界で下剋上する物語~ 十凪高志 @unagiakitaka
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