第25話 灯り

 王や上層部は近隣の視察に出かけており不在、その間にどうしようもない事件が起きてしまっていた。

 のんびり暮らすつもりだった定年間際の騎士は、大騒ぎが早く治まらないかと思いつつ、パンを食べながら座っていた。

 風もないのに灯りが揺らぐ。ここは窓のない廊下。炎が揺らぐとすればそれは、廊下の先のどこかの部屋の出入りがあったか、姿の見えない亡霊だ。今回は前者らしい。若い魔女が駆けてきた。

「ギブ! どうしたらいいんだ、魔女の胴体、最初は言うことを聞いていたのに。今はてんでバラバラにくつろいでる」

「慣れてきたんじゃないか?」

「安い挑発に乗って大魔女をやってしまったフィルを庇おうとしたけど、ここまでめちゃくちゃになるなんて思わなかった」

「魔女と言っても、何人かは命を失っただろう──お前はお前のやらかした罪を償わないといけないと思うよ」

「おじさんはいっつも正論ばかり言う!」

「心配してるんだよ。フィルもミハも、ちゃんと今まで人間をやってきたじゃないか。自分達や、俺達一族が頑張ってきたことを投げ出すんじゃないよ」

「フィルの罪を隠そうとして他の生首を作りまくったのも、やっぱり自首しないとダメか?」

 ダメに決まってるだろ、とギブは内心でため息をついた。姪はいい子だが、あんまり倫理観が育たなかったいい子は、人間社会に置くのは難しい。

「おじさんは牢番の仕事で忙しいから外には出ないけど、さっさとみんなに謝って。国際問題になる前に」

「ダメかなあ」

 諦めの悪い魔女が立ち去ると、ギブは食べ終えたパンのクズを軽くはたいた。

「それでお嬢さん、姪と俺に何か用事があるのかい?」

 天井付近にいたマルメイソンは、しらばっくれようとしたが、鋭い視線が離れなかったので、諦めて返事をした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る