第20話 たぷたぷ

 厨房には大きなお鍋。たっぷりのスープが煮えている。あれって魔女薬じゃないかしら。

 マルメイソンがよく見ようとして降りていくと、一人、二人と人が顔をあげる。マルメイソンは思い出した。そういえば、生首になってから忘れていたが、透明になったように気づかれない魔法も使えるのだ。

 さっと一振り、魔法で姿を消してしまうと、

「さっき生首がなかった?」

「見た気がする」

「寝不足なんじゃない?」

 人間達は都合のいいように解釈して、慌ただしく仕事に戻る。

 鍋のたぷたぷの水面から、誰かの顔が浮かんで片目をつぶった。誰かしら。

 マルメイソンは、その水面が浮き上がって指差した方角へ飛んでいった。

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