第17話 額縁

 きらびやかなロビーには、大きな額縁がいくつも並んでいる。描かれているのは風景や仰々しい貴婦人、紳士の絵。たまに生首。

 ホテル首塚のみなさんは、いつも通りだ。みんな首はついていて、誰もが見慣れない形の影を持つ。

 客である狼男の後ろを通り抜け、魔女少年のハシバさんは、キャリーバッグをカウンターの前に運んだ。慎重に扱ってと頼むと、中でマルメイソンがそうよそうよと返事をした。おや、とホテルの従業員が一瞬目を見開いて、そういえば何でもありだった、と思い出して、宿帳にサインを求めた。お連れ様のお名前もと言われたハシバさんは、荷物、と書いた。

「勝手に喋らないでって、言ったよね?」

 あてがわれた部屋に着くと、ハシバさんは荷物に文句を言った。マルメイソンは親切にされて当たり前のように、だって優しくしてほしかったんだもの、と応える。そうよ、こんなことになって、私、ずいぶんと怖かったし、疲れていたんだ。

 ハシバさんは口籠もってから、「まぁ、いろいろあるよね。一休みして、明日は騎士のたくさんいる、城の前の広場を通ってあげる。騒がないで、こっそり見るんだよ。うまくすれば、裏口に放り込んであげるから」

 自分では何かを打開する予定もないらしい。それでもマルメイソンはお礼を言って、優しく、布団に寝かせてもらった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る