第16話 面

 面が割れてない奴の方がいいだろう、と猫は言った。銀色の騎士が把握していない魔女。魔女と言っても少年で、見た目が若く、ほとんど魔女らしい活動はしていない。旅をして記録して歩くのが趣味の者。

 猫から見知らぬ魔女少年を紹介され、マルメイソンも自己紹介する。少年は一言断ってから、マルメイソンを手帳にスケッチした。

「で、銀色の騎士が気になるって? わざわざ近づくなんて、やめておいた方がいいと思うけど。おそらくだけど、連中は魔女の魔法を便利に使いたくて、でも魔女って団体行動とかあんまりしないだろう? 黙って言うことを聞かせるために、首を落としたんだと思うよ。気の毒だけど、胴体は過酷な労働をさせられてるんじゃないかな」

 どんな汚れ仕事か想像がつかないが、マルメイソンは余計に、胴体を迎えに行ってやらなければいけない気がした。──わりと生首生活に慣れてきたので、自分の胴体を忘れかけることもあったのは内緒だ。

 猫が、「頼むよハシバさん、おれは惚れっぽいんでね、最初の主人に似たこの子のことが心配なんだよ」と言うと、ハシバ少年は、「この間も言ってたよね? もう何回目?」「今回こそが本物さ。月のない夜に生まれて体を脱ぎ変える魔女、フロレンスの魂に似ているから」

 聞いたことのあるようなことを猫は言ったけれど、あいにくマルメイソンは過去も未来も予知しない魔女なので、今度無事に首が胴体とくっついたら挨拶に寄るわねと返したのだった。

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