第18話 椿

 広場にはたくさんの花が植えられていた。街の中でもかなり緑が多い場所だ。

 マルメイソンは、キャリーバッグに開けてもらった隙間から、外をこっそり覗き見た。ハシバさんは雑にバッグを扱うので、マルメイソンは舌を噛みそうになる。

 ふわりと開き始めた椿の花々が、噂する。いやあね、いやあね、あんなに首を集めてどうするのかしら。

 マルメイソンが小声で聞くと、花達は魔女のささやきに気づいたようで、ひそひそと返事をしてくれた。大変ね、貴方も首になってしまったのね。私達、花弁は落ちてしまうけれど、それを首に喩えて持っていく騎士がいるのよ。花首を、空っぽの胴体に乗せて首の代わりにするんですって。

 マルメイソンは嘆息した。魔女や騎士から生首を取っておいて、代わりに花を挿げるなんて。ちょっと下品。

 でもそんなこと、普通の人にはできないことよ、と花達は言った。きっと、魔女みたいに知恵が回る誰かさんが、仕切っているのよ。例えばそれはね。

 ハシバさんが舌打ちした。

「お喋り達め! 目をつけられたよ」

 何事もないようにハシバさんはスタスタ歩いたけれど、やがて小走りになった。

「ごめん、無理そう。広場から離れる」

 小声が聞こえたので、マルメイソンは椿の裏手の茂みに飛び込んだ。ハシバさんごめんなさい。ハシバさんの後ろを、銀色の騎士達が追っていく。

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