第27話 物語

「お断りよ! 魔女っていうのは、人の言うことを聞かないものなの」

「いい笑顔で言うねえ。姪もそういうところ、あるよ」

 じゃあ可愛いお嬢さんじゃなくて侵入者だねと、ギブは言って、マルメイソンに網を振りかざした。

「ちょっとごめんよ、捕まえるだけだから」

「やだ! やめて!」

 マルメイソンは逃げ回るが、すぐに狭い廊下の隅に追い詰められた。ギブはのんびりした空気のくせに、意外と運動神経が良いのだ。

「お嬢さん、大人しくしててくれ」

「もう! 私よりも姪を捕まえたらいいのに!」

「おじさんはそこそこ規律を守らないといけないんだよ、定年したら優雅に下町でパンの食べ比べをして暮らすんだから」

 マルメイソンは苛立ったが、ふと思い出した。物を移動させる魔法がある──先生の胴体がここにあり、先生は首を痛めていて自分で移動できない、ならば。

 マルメイソンは囚われそうになりながら、全力で呪文を唱えた。

「逃げようとしても、もう遅いよ」

 ギブの見当違いの呟きは、途中で険しい誰何(すいか)に変わる。

「誰だ! 誰を召喚した」

「召喚っていうか、移動よ。事態を引き起こした元凶に、責任を取ってもらうの」

 しれっとしたマルメイソンに、笑い声が応えた。

「いいねえ。物語の終わりってのは、こうじゃなけりゃいけないよ」

 少しかすれた、明るい笑い声と共に、牢の扉がひとりでに開いた。

「すなわち、ヒーローの登場だ」

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