第30話 天地/雲壌(うんじょう)
マルメイソンは、城の裏手にある、空飛ぶ魚のいる森にたどり着いた。木々が藻のように茂り、魚達は中空をするすると泳いでいる。すらりと伸びた手足で枝葉をちょっと避けながら。手足? 生えてんのよこれが、と魚の一匹は応える。折りたたんで滑るように飛んだりする。
空クジラを探していることを伝えると、来てるけど、と指差して教えてくれた。
ごうごうと風を鳴らして、巨大な影が空を横切った。
「じゃあ、アレに乗って伝令魔法を撒いてきてくれ」
名付け親の雑な指示に従い、マルメイソンは空クジラに乗る。
キラキラした光を振りまいて、生首となって生きながらえている者達に、城に来るか連絡をもらえたら大魔女が胴体を返してくれると知らせて回る。
天地雲壌あまねく広く、とても回りきれるものではない。マルメイソンは国境までしか行かなかったが──騎士は国内しか移動しなかったらしいので──作業が終わると、家まで送ってもらった。
空クジラから飛び降りて思い出した。自分の胴体を返してもらっていない。後で取りに行かなくては。
マルメイソンはよくよく考えて、そういえば名付け親の生首を胴体の元に移動できるなら、自分の胴体くらい呼べるのではないかと気がついた。気を落ち着けて呼ぶと、果たして、たぶん自分の胴体が、ちょっと疲れたふうに、狭い庭の隅に立っていた。
「お帰りなさい、マルメイソン!」
マルメイソンは自身に叫ぶと、頑張ってくっついた。首はしばらく痛んだが、マルメイソンは胴体を労いつつ、これまで通りの日常に戻っていった。
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