第14話 月

 月のない夜に生まれたマルメイソンは、少し変わり者だった。妖精でもなく魔物でもない、精霊と神のひとしずくでできている──と、魔法を教えてくれた名付け親は言っていた。だから胴体だの、生首だの、形の変化は些細なことだ。それらが離れていたって、マルメイソンはマルメイソンである。

 一般的には、離れてしまうと自分自身を保てない者の方が多い。

 あれを見よ、隣町で巨大な竜が暴れている。緑の美しい体は、人々の積み上げた綺麗な町を、崩して破壊しまくっている。あれはただの竜ではない、緑竜の魔女ではないか。若い頃は無茶な冒険をしてあちこちで迷惑をかけ、最近は大人しくしていたらしいのだが。首を失ったせいで、胴体は理性が吹き飛んだようだ。

 人型に化けず、思いの外のびのびと暴れる姿に、人間に合わせて暮らすのも大変ねと、マルメイソンは少し同情した。今だけはのびやかにあれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る