第34話
黒薔薇騎士団団長、ラグリス・ヴァン・ヴェルディン。
戦闘経験による実力が特に重視される黒薔薇騎士団の若き団長。
実力はケチがつけようもないだろう。
むしろ手合わせを頼んでみたいほど剣術に関する心得が高い。
が―――――――
(昨日は軽蔑の視線を向けてきていたというのに、今はなぜかひどく憐みの視線を向けられている気がする……。)
感情をコントロールするのはどうも苦手らしい。
彼と遭遇して一晩が明け、国王陛下に呼び出され謁見の間にいるとすでにいた彼の視線がひどく居心地の悪いものだった。
それと――――――――
「国王陛下、失礼ですがなぜ皇太子殿下までいるのでしょうか?彼はこの場に不要では?」
明らかに要らないものが混ざっている。
「ちょ、ひどくない!?リーリス!!でもまぁ、しいて言うなら面白そうだから国王陛下同席をお願いしちゃった♪」
調子のいい雰囲気でここにいる理由を語るレベッセン。
レベッセンは意外なことにチェスが上手い。
チェス好きは父親譲りというべきか……陛下もチェスをたしなんでおり、時々陛下とレベッセンはチェスを指しているのだが、今朝がたがその時々の日だったのだろう。
おそらく、うっかり私と黒薔薇騎士団の団長が出勤したら来るように使用人にでも伝えた際、レベッセンがそれを聞いてしまって好奇心を抱いたのだろう
国王陛下も息子の前で気も緩んでいたに違いない。
責めることはしないが、面倒だなとは思う。
なんて思ってると今度は笑みは絶やさず、真剣な声色で言葉を言い放った。
「ま、っていうのは冗談でさ。伯爵がやばいことをしてるなら次期国王として聞いておく必要があると思うんだよね。」
本心はこの国の未来を憂いてだと明かすレベッセン。
私とレベッセンは付き合いが長い。
だからへらへらとしていてもこの男が国のことを本気で思っていることは私も理解している。
だが――――――――
「……王太子殿下。後ほどなんでも一つ王太子殿下の願いを叶えます。ですので今回の件からは手を引いていただけないでしょうか?」
国を思う人間には伯爵とファントムがつながっているという事は話すべきかもしれない。
だが、それでは駄目だ。
(すこしでもリアの本当の性別について隠したい。それに何より……――――――)
王太子は良いも悪いも情が深い。
そんな人間がもし伯爵の本心を知ったならば、誰にも知られることなく暗躍できる伯爵を相手に疑いを気取られずに接することは難しいだろう。
誰にだって苦手な事はある。
それはいずれ王になるものだって同じだ。
その苦手な部分を補うために臣下がいる。
……正直、頭のいいレベッセンの力は借りたいけれど、適任ではない。
それに何より私は―――――
(私の力でリアが心置きなく笑えるようにしてやりたいんだ。)
皇太子であるレベッセンがかかわれば臣下として手柄を差し出さなければならない。
それは……今回ばかりは遠慮願いたいのだ。
「……はぁ、解ったよ。リーリスがそこまで言うという事は今回は俺が居なくても
解決できそうな件ってことだと信じるよ。」
レベッセンは残念そうに息を吐き捨てると眉根をひそめつつも口元には笑みを浮かべ、静かにこの場を後にした。
「陛下、この度は王命にて黒薔薇騎士団に助力を命じてくださったことに感謝いたします。」
レベッセンがいなくなったことを確認すると私は深々と頭を下げた。
そして――――――――
「しかしながら陛下、助力を一度賜りたいといった手前、酷く勝手で申し訳ないのですが……黒薔薇騎士団団長のラグリス・ヴァン・ヴェルディンの意向を尋ねさせていただいてもよろしいでしょうか?」
私は陛下に感謝をしつつも、助力を素直に受けられる状況でなくなったことを口にした。
ラグリス・ヴァン・ヴェルディン。
彼がこの場にいるという事は助力する方向で話がついているのだろう。
だが―――――――――
「……ラグリス・ヴァン・ヴェルディン辺境伯は私の妻となる令嬢と少々すれ違いを起こしておりますので、ただでさえ”辺境伯”という辺境を任される立場の彼が”どういうわけか”王室騎士団の団長として首都に滞在しているのです。すれ違っている相手に関わることに関しての調査でこれ以上負担を増やすわけにもいかないかと。」
我ながら少々、子供じみた事をしたと思った。
私情により”誤解してくるような男の協力は受けたくない”と言っているのだから。
ただ、こればかりはしかたがないというものだ。
(向けられる不快そうな視線も憐れまれたような視線も……そんなものを向けてくる男となんて組みたくはないからな。)
それに私はこれはチャンスだと思ったのだ。
陛下の前で”すれ違い”と発言すれば王命によりその”すれ違い”をどうにかしろと言われるかもしれない。
少し汚いが私はリアへの誤解が解きたいという思いもあり、黒薔薇騎士団の協力を渋って見せるのだった。
そしてレベッセンがしっかりと部屋を後にしたことを確認すると、私はもう潮時だと観念し、国王陛下に真実を打ち明けることにした。
「陛下……大変驚かれると思いますが、リア……カリア令嬢は本当は令嬢ではありません。彼女……いえ、彼は――――――――ラヴェンチェスタ伯爵の婚外子の男性です。」
リアについて知る男。
その男がいる以上、これ以上陛下に黙っていることで不都合もあるかもしれない。
そう思い私はリアには内緒で陛下に真実を打ち明けた。
そして、リアをバッカス侯爵に婚姻という形で売り飛ばし、財力を得ようとしたこと。
そしてその邪魔になるであろう私に「ファントム」という刺客を送り込んできたことを包み隠さず話したのだった。
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