第12話

仕事を終え公爵邸に帰宅すると今日はメアリーとセバスチャンだけが出迎えてくれた。


そしてメアリーにカリア殿の今日の様子を聞くとメアリーの作ったお菓子をおいしそうに食べ、またメアリーがやらかしたドジに対するフォローもしてくれたらしい。


見た目は令嬢だがやはり中身は男性。


立派な紳士だなぁと関心をしていたその時だった。


「……セバスチャン、どうやら掃除が少し甘いようだな。」


「……私としましたことが、失礼いたしました。今すぐ綺麗にしてまいります。」


エントランスホールの随分高い位置にある窓。


そこから視線を感じセバスチャンにそれを教える。


どうやら気づいてはおらず、私が言ったことで意識したようだ。


(となるとなかなかの手練れか。意外と厄介な相手なのか?ラヴェンチェスタ伯爵は。)


貴族会議では基本発言をしない為あまり印象に残らない伯爵というのが私の中での印象だ。


だけどおそらくとんだ狸親父だと私は踏んでいる。


いつも笑みを浮かべながら高みの見物をしている様は正直、周りの人間を見下しているように感じていたからだ。


(ま、同爵位の伯爵家は見下し、それ以上の爵位の階級にはゴマをするという感じか。)


にしてはいささか喧嘩腰な対応だ。


仮にもし策士なのだとしたら単純に偵察だけが目的なのだろうけど偵察に来ただけだからとただで帰しはしない。


(公爵家に敵意をもって足を踏み入れた招かれざる客は徹底的に排除する。それがこの屋敷のルールだからな。)


恐らくセバスチャンが片付ける事だろう。


そう思いながら私は自室へ戻る。


そして自室へと戻るとカリア殿はベッドに横たわってぐっすり眠っていた。


(……どうやら伯爵はカリア殿の現状よりも私に興味があるようだな。)


あまりにも無防備に眠っているのに何も危害がないカリア殿。


ここまで偵察外にされているとカリア殿の伯爵についての話が嘘で別の企みをもって私に近づいたのではないかと疑念が浮かびそうなものだがそれが浮かばない理由はやはり痩せすぎた体から見て取れる虐待。


(正直、カリア殿の指以外に触れるのは怖い。)


仮に少しでも力を込めれば折れてしまいそうな身体を見ていると触れることをためらわずにはいられない。


(とはいえ、風邪をひいてもいけないからこのままにしては置けないか。)


私はまるで壊れ物を扱うようにカリア殿をゆっくりと抱き合げ、カリア殿に掛布団をかけれるように移動させると私はカリア殿を寝かせなおした。


持ち上げてもぐっすり眠っているという事はメアリーのお手伝いが疲れたという事なのだろうか。


(何はともあれゆっくりお休みなさい、カリア殿。)


私は眠るカリア殿を微笑ましく見つめながら心の中でお休みのあいさつをする。


そして私の机の上に大量の手紙が置いてあるのを確認し机へと移動した。


(見事にパーティーの招待状ばかりだな。)


男性から見た私はどうか知らないけど、女性たちからすると女の影も形もなかった

私にいきなり婚約者ができたことに対し「誤報」かどうかを確かめてくる人物が多いようだ。


(そんなに嘘であってほしかったのか……。)


嬉しいのやら悲しいのやら。


何はともあれ令嬢たちには誤報でなく真実だと手紙を返さなくては。


(で、男たちからはパーティーの誘いばかり、と。)


色狂いの選んだ女でも見てやろうという魂胆が見える気がする。


基本的に接点のない人物たちからの丁寧な手紙。


それはつまり逆を言えば今回の婚約において野次馬のごとく興味を持っているという事だろう。


(カリア殿が私を認知したのは何かしらの催し。となればカリア殿も参加はしていたようだし友人もいたりするのだろうか?)


どのパーティーの誘いを受けるかはカリア殿と相談したほうがいい気がする私はとりあえずあからさまに興味でパーティーに招待してきている招待状を省き、厳選したものをカリア殿に見てもらおうとある程度は間引く。


そんな中、バッカス侯爵とラヴェンチェスタ伯爵からも招待状が来ていたことに目を細めた。


(一応この二つは除外しておくか。)


パーティーとなればカリア殿からや無負えなく離れなければいけないタイミングも出てくる。


その間も守り通すというのは現実的に難しい。


なんて思っていると小さく部屋の扉がノックされた音が聞こえ、私は扉へと移動しゆっくりと扉を開けた。


するとそこにはセバスチャンの姿があった。


「旦那様、掃除の件でご相談が。」


「わかった、書斎で聞こう。」


先程の不審者についての報告はいくら眠っているとはいえカリア殿の前でするのは避けた方がいいだろう。


そう思いながら私は近くの書斎へとセバスチャンとともに移動するのだった。


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