第6話
「どうぞ、カリア殿。」
休息をとることになった青薔薇の騎士団は訓練場で各々談笑しながらカリア殿が持ってきてくれたレモンゼリーを頂いていた。
が、談笑の話題がおそらく私とカリア殿のことなのだという事にすぐに気づいた私はカリア殿を好奇の目にさらしたくなかったため団長執務室へとカリア殿を案内してきた次第だ。
「どうぞ、そちらにおかけ――――――」
執務室にあるソファ。
そちらにおかけくださいと言おうとした瞬間私の唇はカリア殿に塞がれる。
カリア殿の舌は私の口内に入ってこないけれど、ひどく求められているように何度も何度も角度を変えて啄まれるキスに私の心が何とも言えない温かさで満たされていくのを感じる。
が、もっともっとカリア殿を感じたいと思った矢先、カリア殿は静かに私から離れた。
「公爵様のゼリーは特別製ですよ。」
外だからかいつもより少し高く作られている声で令嬢らしい話かたをするカリア殿。
これはこれでいつもと違って良い。なんて思いながら私は幸せに浸る。
本当にカリア殿と接する時間が長くなればなるほどカリア殿に溺れていってしまう。
こんな愛らしい生物、どうして愛さずにいれるだろうか。
なんて思いながらカリア殿を見つめているとソファに座ったカリア殿が自分の隣へ来いとソファを叩く。
私は少し急ぎ足でカリア殿の隣に座るとカリア殿は持っていたかごのふたを開けてくれた。
その時、よくよく見ればかごのサイズが随分な重さだったことに気づく。
先程はカリア殿を連れてきてくれたブライアンが代わりに持っていたかご。
彼が持っていたからかそれほど大きく感じなかったが、彼女と並ぶとかごはひどく大きく感じられた。
「……重かったのではないですか?腕を痛めたりなどは……。」
ゼリーの容器はカリア殿と共に団員に配ったのもあり重さがひどく軽いものだったのを覚えている。
が、軽いとはいえ団員30名分。
流石に重かったのではないかとカリア殿の腕をとり、すこしマッサージをしてみようと指に力を入れたその瞬間だった。
「痛っ!」
カリア殿の悲痛な声が聞こえた。
「も、申し訳ありません。力が強かったですか!?」
「あ……いえ、その……お恥ずかしい限りです。」
カリア殿はそういって悲しそうな表情を浮かべ静かに私から視線を外す。
もしかするとカリア殿の男としてのプライドを私は傷つけたのだろうか。
カリア殿は女として生きたいようには見えなかった。
自分は男である。
そう主張したいような、そんな何かを節々に感じたりする。
令嬢のように気配り上手で甲斐甲斐しい姿に隠された夜のカリア殿の姿を見ているとひどくそう思えてくるのだ。
「……あの、カリア殿。もう少しだけでいいので食事の量を増やしませんか?カリア殿は細すぎるというか、あの量の食事ではつく筋肉もつかないと言いますか……。」
折れてしまいそうで心配だ。
なんて言葉はまたカリア殿のプライドを傷つけかねないので言わない。
が、一般的な男性はおろか、令嬢より筋肉がないことに関してははっきりと伝える。
これに関しては男女問わず、必要な話だから。
「……じゃあ、公爵様が私に食べさせてくださいますか?」
「……え?」
少し考え込んだのち、言葉を言い放つカリア殿。
そんなカリア殿は小さく華奢な体を私へと寄せて、少し気恥しそうに問いかけてきた。
「その、こんなところでする話でもないんですが、私はとある事情により食べ物を体が受け付けないというか、食べる習慣がなくて……。でも、その、公爵様に手ずから食べさせてもらったり、時には口移しして頂けたら食べれる気がするんです。……駄目ですか?」
カリア殿はか細い声で私を上目遣いで見つめながら問いかけてくる。
しかも最後は目を潤ませ、声も少し振るわせて問いかけてきた。
あまりにも愛らしいその姿に私は――――――
「ぶはっ!!!」
全身の血が吹き上がり勢い良く鼻血を吹き出してしまった。
「こ、公爵様!?大変!上を向いてください!絶対下を向いてはダメですよ!?」
カリア殿は驚いた声をあげると先ほど私の汗をぬぐってくれたハンカチを取り出し、鼻に当ててくれる。
その後、私の鼻血はすぐに止まったのだけど私のドキドキはしばらく止まらなかったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます