第7話
「さて、どうしたものか……。」
騎士団の就業時間が終わり次第急ぎ屋敷に帰ってきた私はどうにかこうにかカリア殿が少しでも多く食事をとれるよう料理長と意見を交わしていた。
「正直、旦那様は幼少期より好き嫌いもなく何でも食べられてきた方なんで、食の細い方のメニュー考案は少々専門外っすね。」
気のいい兄貴といった感じのヴァ―ヴェル公爵家の料理長、ダグラス37歳、未婚。
そんな彼はお手上げといわんばかりに言葉を発してくる。
料理に精通するものなら何か案を出せ!と、言いたくはなるがそれほどまでに我が家紋の人間は好き嫌いもなくよく食べるため手がかからなかったという事だ。
つまり彼はどれだけよく食べる人間を満足させるかを仕事にしていたわけで、食べれない人間を食べれるようにする、は彼の言う通り専門外でどうにもならないのだろう。
「あのぉ、旦那様?僭越ながら意見をよろしいでしょうか?」
「ん?何かいい案があるのか?メアリー。」
恐る恐る意見交流に混ざる侍女のメアリー21歳。
彼女は今カリア殿の専属メイドとして世話を任せている。
その為何かいい案があるのかもしれないと思い彼女の案に期待を寄せる。
「未来の奥方様はどうやらお茶が好きみたいです。食事をとられないからかおそらく一般的な令嬢より多く水分をとられている気がするんです。なのでとりあえず高カロリーなスープをお出しするとかいかがでしょう?それか、その、未来の奥方様の要望通り口移しで、などもいいかと。」
メアリーは少し気恥しそうにカリア殿の提案も検討したほうがいいと頬を赤く染めながら助言をしてくる。
が――――――
「衛生的にダメっすね。致し方ない場合の水などの口移しはともかく料理を口移しするのは健康を害する恐れがあるんで。」
メアリーの言葉を冷静に料理長として却下するダグラス。
正直カリア殿の言う通り口移しするなど私の心臓がいくつあっても足らなくなることしか考えられない。
「まぁ2つ目の案はともかく1つ目の案はいいかもしれないな。カリア殿の料理は栄養たっぷりのスープにしてくれ。あと、これは誤っている認識かもしれんがカリア殿は噛む力が弱い気がする。その為野菜などの固形は最初は少量にし、徐々に増やしていく形にしよう。肉などは可能な限り煮崩してくれ。」
「はいよ、お任せを旦那様。」
私がカリア殿の食事の内容を指示するとダグラスは加えていた煙草をそっと口から外し、演技がかったお辞儀をする。
方向性が決まったことで腕を振るえることに楽しみを感じているような表情だ。
「では食事ができたら私の部屋に運んでくれ。今日は食堂ではなく私の部屋でとることにする。少々込み入った話をしようと思うのでメアリーは食事を届け次第下がって休んでくれ。」
「かしこまりました、旦那様。」
メアリーはそういうと深々と頭を下げる。
私はそんな二人に「よろしく頼む。」と言葉を残し、厨房を後にした。
そして厨房の扉を開け、外に出るとカリア殿が壁に寄りかかりまっていた。
「……ありがとう、公爵様。俺の身体を心配してくれて。」
二人きりだからか可愛らしい格好をしてはいてもカリア殿らしい話方で話してくれる。
少し照れくさそうに視線を外し、ほんのりと赤く染まるカリア殿の頬を見て私はひどくうれしくなる。
が、そんな姿を見て少しだけチャンスだと思い始めた。
「カリア殿、可能であれば食事をしながら大切な話をさせていただけませんか?貴方の為、また私たちの今後の為にも。」
私はカリア殿の前にひざまずき、カリア殿の手を取り尋ねる。
身長差がすごいこともありひざまずいた方がカリア殿の顔がよく見える。
すると私の目に映るカリア殿は苦笑いを浮かべていた。
「いいよ、聞きたいことがあったら何でも聞いて。」
苦笑いを浮かべるカリア殿を見て私は少し思った。
もしかするとカリア殿には話したくない話が多いのかもしれない。
それでもなんでも聞いていいといってくれているカリア殿の言葉に私は申し訳なさと少しばかりは「信頼」というものをしてもらえているのではないかという喜びを感じるのだった。
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