第21話
リアの階段転落事件から早いことでもう5日たった。
「あの、旦那様。本日もカリア様にお会いになられないおつもりで?」
早朝、セバスチャンに不安気に言葉を投げかけられながら鞄を渡される。
セバスチャンはあまりこういったことは口にしないタイプなのだが、あまりにも気になったのかもしれない。
何せ、私は私が屋敷にいない間のカリア殿の事はわからない。
しかしセバスチャンは私と会っていないカリア殿の姿を見て思うところがあるのだろう。
「昨日も言いましたがカリア様は公爵様の帰りは今日も遅いのかと聞いてきております。お話をされたいのではと……。」
不穏な雰囲気の人間が同じ屋敷で過ごしていたら気になるというのもあるのだろう。
それとも単に気にかけてくれているというだけかもしれない。
が―――――――
「少なくとも怪我が治るまでは鉢合わせにあようにするつもりだ。これ以上リアの表情が曇る姿を見たくはないからね。」
私がリアの心を察してあげられない。
という事だけが何も理由ではない。
(このタイミングで私がけがをしている姿を見ると間違いなく責任を感じるだろうからな……。)
以外にもけがはひどかったのだ。
ただ手首をひねっただけだと思っていた。
しかし、手のつき方が相当悪かったらしい。
骨が折れていたのだ。
(一応普段は服で隠れるがそれこそ……。)
私とリアの関係を考えると、夜の営みを断ると怪しまれ、了承するとバレてしまう。
申し訳ないが多少良くなるまでは避けるしかない。
「それじゃあ行ってくるよ、セバスチャン。」
私はセバスチャンに見送られながら王城へと向かう。
そして―――――――
「この老いぼれが心配していることはそこではないのです、お嬢様……。」
私が屋敷を出る際にセバスチャンが囁いた言葉は私の耳に入ることはなかったのだった。
・
・
・
「は~い、リーリスちゃ~ん。ごはんで~すよぉ~♡」
不快。
その言葉に限る。
昼時、私がけがをしてから毎日のように駆け付け、食事補助をしてくるブライアン。
殴り飛ばしてやりたいが、うざったい事はともかく、聞き手を負傷しており業務が困難な私を補助してくれているのは事実の為、私は不快極まりなくともブライアンに差し出された食事を口に入れた。
「えらいでちゅねぇ~リーリスちゃん♡」
バカにされていると解っているのに怒ることもできないこの状況。
(早く怪我が治って欲しいものだ。)
これがもしリアであればどれだけ幸せだったか。
相手が変わるだけでこうも変わるものなのだろうか。
と、正直思わずにはいられない。
いられ――――――
(…………。)
「ブライアン、貴様の茶番につき合ってやっているんだ。一つ答えてくれ。」
「ん?なんだなんだ?俺で答えられるなら答えてやるさ。はい、リーリスちゃんあ~んっ♡」
一瞬普通に戻ってからまた腹立たしい茶番を再開するブライアン。
コイツはどうしてもこの茶番をやめるつもりがないらしい。
私は深くため息をついたのち、ならせめて迷惑料代わりに有料情報を聞き出してやろうと問いかけた。
「男のお前から見て私はどういう存在に見える?”男”としてどう思うか、教えて欲しい。」
ブライアンは私の本当の性別は知らない。
故に今の質問は友人から見てではなく、客観的に男から見ての感想を聞いたことになる。
そして―――――
「男としての意見だと正直、恋人ができたらお前にあわせたくないね。俺はお前ほど綺麗で強くて、欠点のない男なんて知らないからな。比べられちゃあたまんない。……そんなことをされたらお前がどれだけ特別優れてると理解してても、”惨め”になるよ。」
ふざけていた姿とは一変し、まじめに答えてくれるブライアン。
私が男だと思っているブライアンでこれなんだ。
だとしたら―――――――
(私は本当に、リアを惨めにさせているだけなのかもしれない。)
リアの事が好きだ。
大事だ。
幸せになって欲しい。
そう思えば思う程―――――――
(私では、リアを幸せにできないのではないだろうか。)
私は生まれて初めて、誰かの傍にいることに”不安”を覚えるのだった。
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