第17話
刺客たちの堂々の襲撃を受け数日。
何も変わらない生活を送っている―――――と、言いたいところだがそうはいかなかった。
「行ってらっしゃい、リン。」
「あぁ、行ってくる、リア。」
明るく笑みを浮かべ見送ってくれるリア。
そんなリアに私は違和感を覚えていた。
(無理に明るく振舞っているように思える……。もしかすると女性に守られたのが不快だったのだろうか……。)
少し下品な話をするとベッドの上での主導権は基本リアにある。
それは私がそういった経験がないのもあるがそのリードがリアに男としての自尊心を与えているような気がしている私はもちろんリアに身を委ねることを良しと心から思っているけれど、そういったことも思わないではないでいた。
現に――――――
(あの襲撃から4日。いつも以上にリアが夜の営みに積極的なのが気になる。)
もちろん体力がどうのこうのという事は私にはない。
無いが……――――――
「メアリー、悪いが後ほどリアのマッサージを頼んでいいか?気のせいだと良いが疲れがたまっている気がしてな。」
仕事へ向かおうとする中、門前まで見送ってくれているメアリー声をかける。
するとメアリーは笑顔で了承してくれた。
そんなメアリーの返答を聞くと私はいつも通り職場、王城へと向かうのだった。
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「で、お前は何故いつも私の執務室にいる。」
本当にいつもいつも青薔薇騎士団の執務室に入り浸るサボり魔、ブライアンにため息交じりに問いかけるとブライアンは持参した茶菓子を頬張りながら笑みを浮かべて返答してきた。
「良いじゃないか!ほら、ちゃんとお前がもてなさなくていいよう自分で茶菓子も用意してきてるしさ!」
「茶菓子云々が問題なんじゃない。存在が問題なんだ。」
面倒がかかるかからないじゃない。
気が散ると言いたいのになぜかこの男には伝わらない。
それがひどく腹立たしくてイライラしていると執務室の扉が叩かれた。
「……入れ。」
私は盛大な溜息を吐きながら扉の向こうに声をかけた。
すると扉が静かに開き、そこには一人の侍女が立っていた。
(あの侍女は確か……。)
見覚えのある侍女だ。
もちろん王城に努める侍女すべてなんて覚えてはいない。
けれど誰が重宝している侍女かは警備の観点から覚えておく必要があり覚えている。
「青薔薇騎士団の団長様。王太子殿下よりお手紙を預かってまいりました。」
礼儀正しく粛々と役割を果たす女性。
彼女の事はよく覚えている。
皇太子の左腕とも呼ばれる優秀な侍女で若くして侍女長を務める女性だ。
そんな彼女からの手紙に目を通すや否や、私は静かに立ち上がり騎士団長だけが羽織ることが許される騎士団のジャケットを脱ぎ、椅子に掛けた。
「ブライアン、お前は仕事に戻れ。私は私用で席を空ける。故にこの執務室は閉めていく。」
私の言葉に「えぇ~」などと言い捨てるブライアン。
とはいえブライアンは不満そうにではあるがしっかりと身支度を整え、退室してくれる。
「ご案内いたします、団長様。」
執務室の鍵を閉めると礼儀正しく侍女が声をかけてくれる。
「頼む。」
私は淡白に返答し、侍女の後をついていった。
しばらく歩き、華やかな庭園へとやってくる。
するとそこには先日私がセバスチャンに頼み手紙を出した相手。
「食えない奴」こと、皇太子のレベッセン・ヴァーヴァリュシェンと顔を合わせた。
「やぁ。久しいな、リーリス。」
王太子レベッセンは私を見るなり笑顔を浮かべて片手をひょいッと上げて挨拶をしてくる。
この男は基本笑顔を絶やさない。
王城という気の抜けない場所では笑顔程の武装はなく、常に笑顔でいる事で思考を読ませないようにしているのだが……
私はあまり笑みを浮かべるのが得意ではない為、作り笑顔のこの男をどうしても食えない男と感じてしまう。
「堅苦しい話方ではなくていいだろう?久しいな、レベッセン。」
「いや、それ君がいっちゃう?普通身分が上の俺のセリフだよね?……まぁいいけど……。」
レベッセンは苦笑いを浮かべながら目の前に着席する私に視線を向ける。
そんなレベッセンの表情はひどく楽しそうに見えた。
「表情を見るに協力してもらえると思って良いのか?」
私が静かに問いかけるとレベッセンは笑顔で答える。
「あぁ、もちろんだとも!バッカス侯爵から私財を巻き上げ、ラヴェンチェスタ伯爵から爵位を奪い取るなんて楽しそうじゃないか!」
「……お前、言い方というものがあるだろう……。」
私は正義を歪めることなく正攻法で二人に対抗しようとしているのになぜかこの男が目的を口にするとどちらが悪者かわからなくなってくる。
とはいえ、間違いなく悪は圧倒的にあちらではあるけれど。
「ま、リーリスはこういうことに疎いだろうから一つ助言してあげるよ。とりあえずラヴェンチェスタ伯爵に結納品を送った方がいい。」
「結納品というと結婚する際に相手の家に納める財産の事か?」
「そう、その通りだ。」
レベッセンが言うに、どれだけ強い私でも狙われ続ければ必ずいつかは危うい目に合う。
故に今はバッカス侯爵程の財は渡せなくとも、ある程度の見返りはできると見せつけることで暗殺を諦め、しばらく様子を見るようになるのではないかとラヴェンチェスタ伯爵をよく知るレベッセンは語る。
私はラヴェンチェスタ伯爵と接点がないがレベッセンは違う。
ならレベッセンが言うのならそうなのだろうと思い、私はその提案を採用することにした。
「まぁ何より、相手を持ち上げておいて最後には絶望をプレゼントなんてとても素敵だと思わないかい?」
「…………。」
何故心優しい国王陛下からこんなひん曲がった性格の息子が生まれてきたのかと、些か不思議なものだ。
とはいえ―――――
「お前の思考は基本的に陰湿で気に入らないが……今回の件に関しては賛同する。」
可能な限りの絶望を与えたい。
そう思うのはきっと仕方のないことだと思う。
大事な人を物のように扱い、傷つけてきた。
そんな男たちに慈悲など必要はないだろう。
そう改めて思い私は陰湿な事を良く思いつくレベッセンと今後の作戦会議に励むのだった。
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