第16話
人気が無い路地裏。
そこは刺客たちがターゲットを襲うにはこれ以上ない場所だ。
それも今回は随分と人気のない道へと入り込んでやった。
一体いつ頃姿を現すのだろう。
そう思いながら顔には出さずとも警戒しながらリアと歩いていると私たちは黒いローブで全身を覆った者たちに囲まれた。
「リーリス・ヴァ―ヴェル公爵だな。あんたには二つの選択肢をくれてやる。一つはその女をこちらに大人しく渡し、無事に家に帰りつくこと。もう一つは――――死ぬかだ。」
突然襲い掛かってくるかと思いきやわざわざ”選択肢”などと言ってリアに「お前がターゲットだ」と宣言してくるファントムの構成員と思わしき男。
(一見慈悲深いように見えてこれはリアの心を揺さぶる作戦。おそらくあの狸の入れ知恵なのだろうが……――――――)
「どうやら私はお前たちを買いかぶっていたようだ。単にうちのセバスチャンの腕が落ちていただけのようだな。」
「…………なに?」
私が口角をあげ、あざ笑うような口調で言葉を紡ぐと語りかけてきていた男は苛立たし気に声を漏らした。
そして私は畳みかけるように言葉を紡いだ。
「喧嘩を売る相手を間違えているというのが理解できないとは……本当に貴様らは悪名高き手練れの組織、「ファントム」か?」
戦場で敵を挑発する際と同じく、私は相手の神経を逆なでる言い方をし、挑発する。
手練れだというのにあろうことかその挑発にやすやすとおしゃべりな男は引っ掛かる。
「そうか……死にたいのなら望み通りにしてやるよ、リーリス・ヴァ―ヴェル!!!」
お喋りな男がそう声をあげると私たちを囲っていた10名ほどが一斉に襲い掛かってくる。
「本当に私は過大評価しすぎていたようだ。」
今思えばリアを影に預けておけばよかったと思う。
何故ならば――――――
「私に剣をよこせ!!!」
私はすぐ近くの建物の屋根の上に待機している影に向かい叫ぶ。
すると私の目の前に勢いよく1本の剣が突き刺さる。
その瞬間、大口をたたいていた男が剣を避けるために一歩、後ろへと後退した。
そしてその瞬間を私は見逃さなかった。
剣を勢いよく抜くと男の懐まで一瞬で潜り込み男の腹部を刺し貫く。
余りにも一瞬の出来事に「ファントム」の構成員たちは全員固まるか一歩後退する。
(本当に期待を裏切るにもほどがあるな。)
手練れの集団だというから期待していたというのに、彼らは全く私の期待にそぐわなかったようだ。
戦場ではたとえ上官がやられても敵の首を見続けなければいけない。
何故ならば―――――
「がぁぁっ!!!」
「ぐあぁぁぁあ!!」
一人、また一人。
路地裏に断末魔が響く。
一瞬のスキが戦場では命取りになる。
それをどうやらこの刺客たちは知らないらしい。
怯んで隙を見せた者から私に切り捨てられ、貫かれていく。
刺客たちを片付けるのに私は5分もかからなかった。
「…………すごい。」
刺客をたくさん切り捨てたことで血まみれの剣。
その剣を勢いよく振り、血を軽く払っているとリアの感嘆の声が聞こえてきた。
ありがたいことリアは怯えるではなく羨望のまなざしを私に向けてくれている。
これが令嬢だったら人が切り捨てられている現状を見て吐き気を催していてもおかしくないだろうに。
「ね、ねぇ、リン!!あの、あのさ!俺も鍛えたらリンみたいに――――――――――あ……。」
満面の笑顔で私に何かを問いかけようとするリア。
恐らく私と同じように鍛えたら私のように強くなれるのかという事を聞きたかったように思える。
けれどリアはその言葉を途中でやめてしまう。
そして切なげな表情を浮かべた後――――――
「ううん、何でもない。」
苦笑いを浮かべ、切なげな声を発してきた。
(リアは賢いから気づいたのだろうな……今のリアは鍛える事すらできない状態だと……。)
食事はようやく人より少ない程度に食べれるようになった程度。
身体を動かせば食事も入るようになる、という事はあるだろう。
けれどその体を動かすという事が今のリアには随分厳しいことのように思える。
今のリアはおそらくだが稽古用の剣すら握れないだろう。
それほどまでに栄養不足で体に力がない。
それを指摘されることを恐れて言葉を飲み込んだのだろう。
(気の利く言葉をかけてあげられたらいいのだが……。)
残念ながらこういう時、部下をもってはいても決して優しい寄り添うタイプの上司ではない私にかける言葉を見つけるという事は至難の業だった。
だから私は――――――
「帰りましょう、リア。」
何も声をかけることをせず、静かに腕を差し出すのだった。
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