第24話

バッカス侯爵は一口、ワインを口に含むと不気味に笑みを浮かべながら話し出した。


「実はですね、とても面白いことを考えついたのですよ。」


バッカス侯爵は愉快そうに声を弾ませながらそう語る。


その口を今すぐ塞いでやりたいと思うが、そうはいかない。


だが―――――――


「無駄話をするつもりはない。簡潔に話してもらおう。ついでに言えば長居する気もない。」


私は素直な気持ちでここに長居をする気はなかった。


(が、どうせこの男はつもり話でもあるだろうに。逆に時間を稼ごうとすれば怪しまれる。こちらが手短に終わらせようとしていることで疑いの目をむかせるのではなく、むしろ強欲なこの男が私を足止めしたいようにすればいい。)


何の目的でリアをこの場に招待しようとしたのかは正直解りはしない。


どんな理由だろうと許しはしないが……それはまぁいい。


リアはここにおらず、時間はたっぷりある。


(こちらが優位に立ちつつ話を聞いてやれば――――――――)


話を聞く気が無いように見せかけ聞く。


それが最適解だろうと思った。


その瞬間だった。


「がっ……ぁぁ……――――――」


突然の事だった。


大きく心臓が跳ね、胸が痛みだす。


(ま、まさか……毒を……盛られたのか…………?)


朦朧とする意識の中、私はひどく痛む胸を使メモしないのに掴もうと服を握る。


そして視界が大きく歪み、激しいめまいと共に体を床に倒れこませてしまう。


その最中、酷く腹立たしく微笑むバッカス侯爵の表情が見える。


(くそっ……私に手を出すことはないと油断した…………!)


愚かにもバッカス侯爵如きの策にハマってしまったことを理解する。


そのことに後悔を募らせていたその時だった。


「カリア嬢は来ないことは想定内でした。そもそも、貴方はもしかすると招待状が来たこともお伝えしていないかと思ったのです。」


バッカス侯爵はゆっくりと私に歩み寄りながら語り掛けてくる。


朦朧とする意識の中、私は必死に耳を傾ける。


そして――――――


「けれど貴方は本気でカリア殿を愛しているが故に私に腹を立て、ここまで出向いてくるだろうと想定していたのです。そして私はそれを想像した時、最高のシナリオを思いついてしまったのですよ。」


ゆっくりと目的を語りながら私の近くまで歩み寄ったバッカス侯爵。


私の傍までやってくると彼はかがみ、床に転がる私の顎をを持ち上げ、薄汚い顔を私に近づけ、続けて語る。


「カリア嬢、そして美しいあなたを手中に収める方法を、ね。」


私に興味がなかった男とは思えないほど鼻息荒く私を見つめてくる。


欠片も今まで私に興味を示さなかったとは思えないほどに興奮しているのが伺える。


だからこそわからない。


この男は一体私を捕まえて何をしようというのだろうか。


(少なくとも……私の身体が目的ではないだろう……。)


男好きの本能からかこの男は本能で私が男でないことを気付いているのではないかと思う程に興味を示してこなかった。


だから理解できない。


今の、この状況が。


「私を……どうする……つもりだ…………。」


私はかろうじて意識を保ちながら問いかける。


すると公爵は私をゆっくりと床に転がし直した。


「それはまぁ……起きてからのお楽しみ、ですよ。」


侯爵はひどく不気味に、気持ち悪い声でつぶやいた。


その言葉がひどく不快で、今にも襲い掛かってやりたい気持ちになったけれど、残念ながら私の意識はそこで途絶えてしまうのだった。

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