第23話

「ようこそ、ヴァ―ヴェル公爵様。良きお返事を頂いた際は目を疑いましたよ。」


にっこりとほほ笑みながら手を差し伸べてくるバッカス侯爵。


本来であればあまり握手を交わしたくない相手だが仕方がない。


そう思い私は握手を交わす。


「えぇまぁ。何分私は男性の批判を買いやすいもので、紳士会というのが苦手なのです。本来であれば今回も出席しないつもりでしたが……まぁ……紳士の夜会と招待状をよこしてきた割に私の未来の妻まで招待されていたという事についてでもお話をお伺いしようかと。」


にっこりと笑みを浮かべてくるバッカス侯爵とは対照的に私はレベッセンのように何かを含んだように微笑んでみる。


まぁ、含んでいるというよりは不快感を隠して微笑んでいるが正しい。


少しでも笑えとここに来る道中レベッセンに言われたため、私は可能な限り笑みを浮かべる。


が、不快なものはどうしようもない。


そんなことを想いながらバッカス侯爵と握手をしているとバッカス侯爵は突然私の手を撫でるように指を動かし始め、不快感を覚えて急ぎ手を祓おうとした瞬間、バッカス侯爵から手を離した。


「私の部屋で話でもいたしませんか?」


バッカス侯爵は不気味な程いい笑みを浮かべ、問いかけてくる。


なるほど。


やはり私を招待したのには何かしらの思惑があったらしい。


(警戒心は緩めずに応じるとするか。)


私の目的は時間稼ぎ。


足止めをすることをしっかりと頭に刻みながら、私は公爵の後に続き部屋を移動した。


そして、侯爵の部屋と思わしき所へと移動すると12,3程の年齢くらいの少年がやってきた。


「あのワインを頼むよ、良いね。」


侯爵は優しい声で若い少年に声をかけると少年は礼儀正しく部屋を後にした。


(……使用人に夜の相手をさせるといっていたが、乱暴な扱いをしているわけではないのか?)


少年の身体にはどこにもけがはないように見えた。


むしろ肉付きもほどほどでしっかり食事などももらっているように見えた。


まぁ……


(女っ気のない屋敷で若い少年が働いているという点は胡散臭いがな。)


使用人の子供が働いている、ということはよくある話だ。


だけれどこの屋敷は女性が見当たらない。


ならば特別な事情でもない限り母親の元で子供は育つだろうし、妻を持つ人間が夜の世話もさせられる侯爵家で働き続けるとも思えない。


(だがまぁ、何にせよやり方はともかく、酷い扱いはしていないようだな……。)


このような場所にリアが凸がさせられていたらと考えるとおぞましい。


けれど住めば都という言葉もある。


それこそ境遇によってはこの侯爵家が天国のように思えることもあるのだろうか。


(だとしたら……。)


もしバッカス侯爵が検挙され、捕まったら、ここにいる男たちはどうなるのだろうか。


なんて思っていると若い少年が戻ってきてワインを注いでくれる。


酷く若いのに慣れた手つきだった。


「ささ、ヴァ―ヴェル公爵様。乾杯を。」


「あぁ、頂こう。」


私はワイングラスを受け取り酒を交わす。


ワインの香り、味は共にとても上質で、流石の金持ちといったところだろう。


(今まで飲んだことがない程上質なのがなぜか腹立たしいな。)


見せびらかすつもりはないのだろうが、何故だろうか。


一応恋、いや、結婚敵とでもいうべきか。


張り合うべき相手だからなのか、財力を見せつけられている気になってしまう。


(……いったん落ち着かねばな。)


らしくなく冷静さを欠いているようだ。


そう思いながら私はワイングラスをおき、侯爵に問いかけた。


「此度、私を招待してくださった理由をお聞かせ願いたい。可能であればこのような男だらけの場に私の未来の妻まで招待をした理由も。」


私が切り出すことになんの可笑しさもない話題。


その話題を切り出すと公爵は不気味にほほ笑むのだった。

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