第2話
「…………う、うわぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
全裸の令嬢、いや少年のみてはいけないものをしっかりと見てしまった私はひどく大きな声で声をあげ、現在腰を掛けていたソファを後ろに倒してしまうほどに動揺した。
そして大きな叫び声と共にソファが倒れる音が響き、それまた同時に私の頭には激痛が走った。
そんな転倒した私に半分、迫る態勢をとっていた令嬢?少年?も共に転倒してしまい、騎士としてとっさに私は彼女の頭を保護し、彼女が怪我でもしないように抱きしめた。
……が、それがよくなかった。
(は、裸の人間を力強く抱きしめてしまったぁぁぁぁ!!!)
服を着ていないせいか触れてはいけなかったという罪悪感が私を襲い始める。
「す、すまない!君を巻き込むつもりは無く、いろいろ反射的にだな―――――」
色々事故だ。
そう説明しようと気を動転させていると天使のような子は私のタイを慣れた手つきで首元から外す。
一体何をしているのだろう。
なんてことも考えられないほど動揺していた私は同様のあまり何も考えられずヘタに動けないでいた。
その結果――――――
「うん、うまくできた。」
満足そうに裸の天使が私に馬乗りになった状態で私を見下ろしてくる。
見下ろされている私はというと私のタイで痛いほどきつく腕を縛られていた。
(ど、どういう状況なんだ!?)
色ごとの経験が全くない私はひどく動揺せざるを得ない。
これは所謂、無理やり既成事実を作ろうとされている現場なんだろうか。
というか――――――
(な、何故だろう。少しばかり私はこの状況を楽しんでいる気がするぞ!?)
ひどく驚かされ、されるがままにされている私。
だが抵抗しようと思えば掴めば折れてしまいそうな華奢な天使が縛ったネクタイなど容易に引きちぎれ、更に私の上から退けさせることも可能だろう。
だが、そうできない私がいる。
(か、可愛らしい顔をしているからか?それとも私にこんな、こんな無理やり男の人に手籠めにされたい願望でもあったとでもいうのか!?)
一体この先は何をされるんだろう。
恥ずかしいし今すぐ逃げ出したい。
だけどそれが可能なのにしないという事はやはり――――――
(期待、しているのだろうか……。)
そんなことを思い始めるとなんだかもう何もかもどうでもよくなってくる。
いっそ、好きにしてくれと。
そんなことを思い目を閉じる私。
が、しばらくして――――――
「あれ?胸がある……?」
(…………あ……。あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!)
私は流されてはいけなかった。
どんなに私がそういうことに仮に飢えていたとしても求めてはいけなかった。
その理由を思い出した。
(私の本当の性別、知るわけがないだろう私の馬鹿者!!!)
私に馬乗りになっている天使はあくまで私が男好きの男と思い求婚してきたわけだ。
もしかすると天使も男が好きなのではなかったのだろうかと今になって考えることができてきた。
そして彼もまた家庭の事情で性別を偽らなくてはいけなかったとかで――――――
(……ん、待て。だとしたら男色なのは彼の方で、そもそも令嬢は令嬢じゃないという秘密を持っていた。ということはつまり――――――)
「……カリア殿、一つ提案したい。私はとある理由があり男として育てられた。貴殿も何か理由があり令嬢として育てられたのではないか?もしそうならお互いの為にも互いに「何も見なかった」。という事にしてはどうだろうか。」
驚きの連続で止まっていた思考が動き出す。
そう、そもそも流されてもいいなどなんと思考が浅はかだったのだろうと自分を叱責したくなる。
なんて全く抵抗しない自分をどうかしていたと思い始めた矢先だった。
返答をもらうために私の上に乗る天使を見つめていると天使はまるで小悪魔のようにいたずらな笑みを浮かべ、舌なめずりをした。
そしてその次の瞬間だった。
「んんっ……!?」
私の唇は小悪魔に突然奪われた。
当然、令嬢たちの思いに答えられない分私はしっかりと誠実にお相手をしてきた。
令嬢たちに記念のキスを求められても応じることはなかったし、隙を狙われてキスをされかけてもすべて交わしてきた。
なのにそんな私の唇はいとも簡単に奪われ、更にその事実に驚いていると私の口の中に熱い息とともに固いものが押し込まれてきた。
それは私の上に乗っている人物の舌だという事がすぐに分かった。
経験も知識もない私は何故彼の舌が私の口に突っ込まれているのかわからなかった。
だけど彼の舌が私の舌に絡み、次第にただただ驚くだけだった私は無意識のうちに彼の首に手を回していた。
この時、私は初めて敗北感を味わった。
圧倒的に抗うことのできない甘美な営み。
情事はもちろん、恋すらしたことにないお子様な私を弄ぶかのように翻弄する小悪魔のような彼に私はすっかりと大切なものを奪われてしまうのだった。
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