第4話

カリア殿と肌を重ねてから数日。


カリア殿となら子供も作れるわけで、いろいろ都合もいいのでは?と思い婚姻証書にサインをした。


が、婚姻証書にサインしたからハイ結婚、とはならない。


この国では婚姻証書にサインしたのち、60日以上は婚約期間を設け、婚約期間が明ければ結婚できるという制度になっている。


その為、私とカリア殿はあくまでまだ婚約者だというのにカリア殿は何故か公爵家で寝泊まりしているうえ、毎晩毎晩私を快楽に溺れさせてくるため私は「どうしたものか……。」と頭を悩ませていた。


が、実際のところ悪い気はしていない。


「はい、これで良し!」


ほどくのも上手ければ結ぶのも上手い。


カリア殿は私のタイを整えて笑いかけてくれる。


もちろんカリア殿は令嬢の装いに身を包んでいるわけだが……――――――


(あぁもう、どちらも可愛すぎるっ……!)


一糸まとわぬ華奢だが男らしい身体も愛らしいドレスに身を包んでいる姿もどちらもたまらなく可愛い。


(ひどく流された気がするが後悔などする暇もなくいいことづくめなわけだし、いろいろ良いとするか。)


なんてことを思いながら妻?夫?……まぁ、婚約者に身なりを整えてもらい、仕事へ向かう準備を終えた。


その瞬間、ふととあることが頭に浮かんだ。


(そういえば以前呼んだロマンス小説で仕事に行く際、夫が妻にキスをする描写があったな。)


夫婦というものがどういうものかはあまりわからない。


だから過去に呼んだロマン小説を参考にしようと思い立った私は――――――。


「行ってくる、カリア殿。」


仕事へ行く私を見送ってくれるカリア殿に挨拶をし、彼の手を取り膝をつく。


カリア殿は身長が150センチほどしかない為身長差がすごいのでロマンス小説のように容易に不意打ちでキスができない為、私は騎士らしく彼の指にキスをした。


そんな私の行動を彼はどう思うだろう。


そう思って彼を見上げると彼はひどく驚いたように目をまんまるくしていた。


が、その次の瞬間、顔の筋肉を緩め、温かな笑みを浮かべてくれた。


その笑顔を受けて私もひどく温かな気持ちになる。


そんな気持ちを抱いたまま私は馬車に乗り込むところまでカリア殿の見送りを受け、ひどくすがすがしい気持ちで職場である王宮へと向かった。


が――――――――


「本気なのか?リーリス。」


王宮につくなり私は国王陛下に呼び出された。


国王陛下は実は父の兄で、私にとっては叔父。


それゆえに私の秘密を知る人間といってもいい。


意外とひどく近しい国王陛下は私を個人的なお茶会に招き、ひどく困惑した表情で私に問いかけてきていた。


「結婚の件ならば本気です。その、彼女との結婚は色々都合やら何やらを考えると最良なんです。」


決してだらしない感情に溺れてなし崩しに押し切られた、とは言えない私はできるだけまじめな表情で皇帝陛下に言葉を返した。


「……だが、令嬢は女性なのだろう?ヴァ―ヴェル公爵家の未来を考えるならばいずれお前の遺伝子を受け継ぐ子を持たなければならない。それについては令嬢には話はしているのか?」


私の秘密を知るが故に心配している。


そう言った感じの国王陛下の気遣いにひどく気持ちが温かくなる。


が、そんな陛下にも申し訳ないがカリア殿が実は男であったなどという事実を勝手伝えるわけにはいかない。


「子供のことなら問題ありません。カリア殿は私の秘密を知ってなお共になることを望んでくれましたので。必ずやいつか父の代わりに私の子を抱き上げてやってください。」


当たり前だが私が結婚することで一番障害となるのは「子供」という名の「後継者」だった。


いっても恐らくまだ先の話にはなるだろうけど一応「男女」での結婚なのでちゃんと子供はできるだろう。


それに――――――


「国王陛下、婚約式を楽しみにしていてください。私の妻となる人物がどれだけ愛らしいかをお見せしますので。」


子供を作る為に仕方なくの結婚という考えは私にはない。


結局今のところカリア殿が私を選んだ理由もわからないし、なぜこうも急ぎ結婚したいのかもわからない。


が、私はカリア殿の容姿がもともと好みなのもあるのか、甲斐甲斐しいカリア殿のことを少なからず思い始めていたのだった。


しかしながらカリア殿への好意は深まっていくと共に疑問も深まっていく。


何故私が彼の結婚相手に選ばれたのか。


彼は決して私に好意があるわけではないだろう。


そういう視線を感じないという事だけは断言できた。


自信の性別の秘密もあるからこそカリア殿と婚姻関係を結べるのは願ったりかなったりだが、やはりカリア殿の言う身体の相性だけではなく「信頼」というものをしあえる夫婦になりたい。


その為には聞くことを恐れて数日、聞くことのできなかったことをできる限り早く聞かなければいけない。


(もし何か助けを求めて私のところへやってきたのであれば私はカリア殿を護りたい。)


男性というには未発達な身体。


筋肉などほとんどなく、乱暴に触れれば壊れてしまいそうなほど痩せている。


小食で虚弱な令嬢と言われれば納得もするだろうがどうもそういう感じはない。


(まぁ、実際小食ではあるんだが……雀の餌ほどしか朝昼晩問わずとっていないらしいからな。)


信頼できる執事のセバスチャンがそういっていた。


(……カリア殿の身体を思うのであれば無理にでも食べてもらいたいところだが……。)


食べたくないものを無理強いしたくない。


なんて思いながら国王陛下に茶菓子として出されていたものを口に含む。


その瞬間、私には一筋の光が見えた気がした。


「へ、陛下!この菓子は王宮の者が作ったのですか!?」


「ん?あ、あぁ……。そ、そうだが……?」


突然声を荒げて問いかけてしまい驚く国王陛下。


そんな陛下の反応を見て私は咳払いをして一旦気を落ち着ける。


そして紅茶を含んで気をしっかりと落ち着かせると今度は落ち着いた声で皇帝陛下に声をかけた。


「陛下、このようなお願いをするのは大変失礼かもしれませんが、こちらの菓子を私の未来の妻に持ち帰らせていただいてもよろしいでしょうか?」


私が口に含んだ菓子。


それは甘さもちょうどよくくどさを感じない菓子だった。


これならばと思い陛下に願い出た。


が、陛下はとても渋い顔をしておられた。


「ふむ……いや、その菓子を気に入ってくれたのは嬉しいのだが、その菓子はなんというか、王女が兄のように慕う貴殿の為に心を込めて作ったものでな。流石にそれを渡すというのは……。」


「あ……大変失礼しました。そうですね、私の為に作ってくださったものであれば他の者へ渡すのは間違えておりますね。どうぞ、今の言葉はお忘れください。」


私がそういうと国王陛下は少しバツが悪そうに王女殿下の近況の話題へと話を変えられる。


私も少しバツが悪くなりながらもその陛下の心遣いに感謝しながら話題を変えるのだった。

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