前世混戦

紫吹 橙

プロローグ

第1話

 パチンっ、と男は指を鳴らした。

 その瞬間、空が禍々しい色に変わり出した。

「あはっ、ついに、ついに!やったよ!日本国民に催眠をかけて前世を思い出させ能力も使えるようにした。これからが楽しみだね!ねぇ、倉田慶喜くらたよしのぶくん‼︎」


 場所は変わり、東京。

 そこで一人の女が起きた。


「ふーよく寝た。っ、痛いな…」


 急に頭痛が走り深い眠りについた。

 何だ、これは……

 何だか分からないが記憶が流れてくるような感覚がする。

 これは、誰だ?


『あのっ』


 そこには、肩ほどまで伸ばした黒髪の女性が、巫女服?というのだろうか。それを着て立っていた。


 —其方は誰だ?

『あのね、こんなことを言われても信じられないと思うんだけど……』

 —それは私が決めることだ。言ってみろ。

『えっと、私は貴方の前世なの』

 —ふむ、確かににわかには信じ難いな。だが、私は信じるぞ。

『信じてくれるの?』


 彼女は不安そうに首を傾げた。

 突拍子もないことだという自覚はあるのだろう。

 実際、私も彼女が不安そうでなければどうだったか分からない。


 —あぁ。それと、先程から流れてくるのは其方の記憶なのか?

『うん、そうみたい……今までみんなに封印されていた前世の記憶を誰かが解放してしまったようなの』

 —ほう?みんな、とはどのみんなのことだ?

『それが、日本国民全員。みたいなの……』


 そんなことが可能なのか?

 可能だとしても、何故そんなことをするのか、さっぱり分からないが……


 —私は何をすれば良いのだ?

『なんで私が何かを頼もうとしているのが分かるの?』

 —其方の声が震えているようなのでな。これから頼むことを引き受けてもらえるか気になり、怖いのだろう?

『そうなの、少し怖くて……でも、貴方なら引き受けてくれそうだね』

 —その通りだ。案ずることはない。

『ふふっ、では、お願いさせてください。貴方には今から降り注ぐ厄災から人々を救ってほしい。この現象を引き起こした人物は記憶を思い出させ能力を与え、日本を混乱の渦に巻き込んでいる。それが広がるとこの世界は滅びてしまう。だから、貴方にはそれを防いでほしい』


 随分重たい頼み事だな。

 けれど……


 —ふむ、それは其方の巫女の力が働いたのか?

『うん、私の巫女の力の一つである危機察知能力だよ』

 —そうか。先程から記憶をみておったがその性能は確かなようだからな。その頼み、引き受けるぞ。だが、もう一つ頼みがあるのではないか?

『えっ、な、なんで?』


 —其方の声が聞こえるのでな。

((彼のことを救けたい。今度こそ守りたい))と。そのことも頼んで良いのだぞ?大切な想い人なのだろう?

『そっか、もしかしてオトの力かな?貴方に懐いたのかも。うん、私は彼を救けたい。彼を【前】で想いも伝えられず失った時、思ったの。もし、次があるなら私は彼のことを救けたい。力になりたい!って。だから、お願いしても良い?」


 彼女は大粒の涙を流しながら言った。


 —そんなに泣いているのに、断る理由もない。そちらも引き受けよう。

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