トランプ

3話

「さて、一日経っているのだったな。だが、外はまだ暗いのか」


 何時なのか気になり私は時計を見た。


「ふむ、五時か。いつものランニングをしに行くかな」


 世界が滅びてしまうかもしれないといっても、平常心は保たねばならぬからな。

 いかなる時も動じず強くなくては。戦いがいつ始まってしまったとしても、不安にならないように自分を鍛えていくしかないのだ。

 そのようなことを考えながらトレーニング着に着替えた。


「よし、行くか」


 いつものように家族を起こさないように静かに家を出て、毎日走るコースに向かう。


 やはりまだ朝は冷えるものだな。

 けれど、走っていれば暖かくなるだろう。

 そうして走り続けて三十分くらい経った時に、いつも同じ時間に走る彼に会った。


「よっ、笠野かさの!今日も早いな〜」


 と、私の横で言う黒髪短髪の爽やかな彼は、千石斗真せんごくとうまという男である。


「千石の方こそ早いではないか」

「ははっ、まぁな!」


 いつもと変わらぬな。

 前世を思い出していないのか?


 —千緒、寝てる時にすまないが、気になることがあってだな。

『ううん。もう起きてたから良いよ〜それで、なぁに?』

 —私の横にいる男の前世って分かるか?分かれば関係者だったということになるが……


『えっと、少し待ってね』


 それから彼女は私を通して彼を見て、少し考えるようにした。

 彼女が数分経ち、頷く。


『凛ちゃん、分かったよ』

 —ほう、そうか。ということは千石の前世は千緒と関わりがあったということだな。

『そうだね。でも、私より彼の方と関わりが深かったかなぁ。彼の懐刀と言われてて、彼の組での仕事も手伝ってたからね』

 —もしや、剣士だったのか?手合わせ願いたいものだったな。


 強い人とは戦ってみたいからな。

 千石自身も強いが、前世でも強かったのだろうか?


『ふふっ、剣道部だもんね。そうだ、名前は新井刀真あらいとうまくんっていうんだけど、確認してみてくれないかな?』

 —あぁ、分かった。


「千石、確認したいことがあるのだが良いか?」

「あぁ、良いぜ!」

「突然すまないが、君の前世での名は新井刀真というのではないか?」


 すると、彼は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐさまニカッと笑って言った。


「そうだぜ!でも、なんで知ってんだ?」

「随分あっさり答えるのだな。何故知っているのか、だったか?それは、私の【前】が君の関係者だったからだ」

「へーそうなんだな!すげえな偶然って!なぁ、笠野の前世って誰なんだ?」

「私は、晴間千緒はれまちおだった」

「晴間さんか!刀真から聞いてるぜ。刀真の友達ダチの好きな人だったってな!」

「聞いたということは君も自分の【前】と会話ができるのか?」


 彼は大きく頷いて笑った。


「おう!結構楽しいぜ!オレと名前一緒だし気が合うからな〜」

「そうか、よかったな」

「おう!それとよ、刀を使ってたみてえだから教えてもらってんだ!」

「君も剣道部だものな」


 三年間、同じ剣道部で切磋琢磨してきた仲間である。


「おうよ!笠野には負けねえぜ‼︎あっ、そうだ倉田慶喜ってもう見つかってんのか?」

「いや、まだだ。というか、昨日今日ですぐ見つかるわけないだろう。それに、今は早朝だしな」


 そう言うと、彼は少し驚いてから頭をぽりぽりとかいた。


「そういやそうだったな〜忘れてたぜ!刀真が早くヨシに会いたいって言うからよ」

「そうだったのだな。なら、協力してはくれぬか?倉田を探すのを。千緒も探しておるからな」

「もちろん良いぜ!じゃ、オレもう行くな〜また学校でな!」


 そうして彼は手を振って帰っていった。

 さて、私も帰るか。と再び走り出す。

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