7話

 彼、いや、彼女は矢桐織を見て一言。


「これでよろしいですか?織様」

「はい、文句なしですよ。それにしても、僕に似て悪趣味ですねぇ。彼女の友人に変身するなんて。さて、貴方はどうするのですか?お友だちと姿が変わらないのに斬り捨てるなどできますか?くふっ、くははっ」


 怜と同じなのに斬り捨てるなどできない。

 だが、どうにかしなければ意識を奪われている誰かが…

 私は、どうすれば?

 そんな時、後ろから声が聞こえた。


「笠野、オレに任せろ!」

「千石?だがっ」

「いいから。さっきから聞いててイラついてんだ!そこの矢桐織って奴にもジョーカーってのにも!だってそいつらはわざと水嶋に変身して攻撃されないようにしてる。そんな卑怯なのオレが嫌なんだ‼︎勝負ってのは正々堂々が基本だ!」


 卑怯、か。確かにそうかもしれない。

 けれどこちらも、一人に対し三人と卑怯だった。

 だからこれからはお互いが正々堂々戦えばいい。

 もっとも、相手がそうするかは分からないが。

 だが私は奴と、矢桐織と正々堂々向き合いたい。

 そのために自分がすべきことはわかっている。


「では、ジョーカーは頼んだ」

「おう!でも水嶋の姿してるし、もし本人が傷つくとかだったらごめんな?」

「その可能性はあるかもしれないが…そうだったら後で君のことを引っ叩くから覚悟しておけ」

「おいおい…お前の力強いから怖いんだけど⁈まっ、そーじゃねーことを願っておくぜ!じゃ、笠野も頑張れよ‼︎」


 彼は自分の刀を出して、ジョーカーに斬りかかった。

 だが、その人物になっている時は力は劣るが、能力が使用できるようで、防がれてしまった。

 私は声を張り上げた。


「心配すんなって!こんなの何度も斬ればいいんだからよ!」


 彼はキリッとした顔をして刀を持ち直すと


青斬流刀連光斬せいざんりゅうとうれんこうざん‼︎」


 一瞬、青色の光が見えた。

 そしてその光が消えたと思ったら壁もなくなっていたのだ。


「な?大丈夫だったろ?だから、お前も自分の方に集中!」


 するべきことは頭では分かっているはずだったのに人のことを気にしてしまっていた。

(私もまだまだ、だな)


 一度目を閉じ、深呼吸をしてから目を開けた。


「矢桐織!」

「うるさいですね…大声で呼ばないでくれます?」

「今からお前の【今】を救いにいく」

「そうですか。やれるならやってください?」

「あぁ。いくぞ!」


 私は奴のところに駆け出した。


「はぁ、面倒ですねぇ」


 行手を阻むようにトランプが何枚も飛んでくる。

 けれど、そんなの関係ない!

 避けていれば気にならんからな。

 だが、量が多すぎて近づけぬな…


「ほらほらどうしました?僕の【今】を救うんじゃないんですか?それとも諦めたんですかねぇ。やっぱり物語に出てくるようなヒーローはいないんですね…颯爽と駆けつけてくれる人なんていないんですよ。そんなの!」

「諦めるなど、しない!」


 けれど進めないのは事実だからな。

 どうしたものか…

 すると、声がした。


粉壁パウダーウォール

「怜⁈何故?」


 声のした方を見ると、怜が辛そうにしながら能力を使っていた。


「凛が戦っているのに私が頑張らないわけにはいかないから。壁は、すぐ消えちゃうから早く決着をつけてね」

「あぁ、ありがとう。休んでいてくれ」


 彼女のエネルギーだって底をつきそうなはずだ。なのに、自分が何もできなかったで終わるわけにはいかない。

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