8話
私は壁を利用しながら距離を縮めていく。
「また壁ですか。そんなの崩してやりますよ!」
奴は壁に向かって攻撃を始めた。
私はさらに進んでいく。
「貴方は怖いとかないんですか⁈」
「怖い、か。それを感じる時だってある。それでも立ち止まっているわけにはいかないから、な!」
瞬間、目の前から壁が消えた。
「そうですか…つくづくイラつきますよ。貴方みたいな人は」
「それはすまない。それと、これからすることも謝っておこう」
私は矢桐織の肩に触れた。
—千緒、頼む。
『うん。わかった』
目を閉じ唱え始める。
「『汝の魂を【前】へ【前】の魂を汝へ。混ざり合って一つの魂へ。
「僕はやっぱり貴方が嫌い、ですよ。ヒーローなんていないと思っていたのに期待させないでくださいよ。お人好しが…」
「すまなかったな。けれど私は例え、君が困っていたとしても助けるぞ」
「くはっ、そうですか…」
そうして矢桐織は目を閉じ、姿をどんどん変えていった。
(先程の笑顔は本物に見えたな)
そんなことを考えていたら、姿が元に戻ったようで、茶色の髪で制服を着た女性になって
「えっ、ここどこ⁈学校ですか⁈なんだか荒れてる⁈な、なんなんですかこれー!」
と、困惑していた。
(これは説明した方が良さそうだな)
「大丈夫か?」
「大丈夫なわけないですよ!これどうなってるんです⁈あっ、うち
一年生か、後輩だな。それにしても、この子が奴の【今】か…
なんと言うか、拍子抜けだな。
「説明する。まず、ここ二日の記憶はあるか?」
「うーん、ぼんやりしてます。でも誰かと頭の中?で話したと思うんですよね!」
「おそらくそれは君の前世だろうな」
「えっ、前世ですか…やだなぁ、あんな凶悪そうな人」
先程の口ぶりからして奴が自分の【前】だと知らなかったようだな。
それに、この子からも凶悪だと思われていた。
それなのに、何故?
「そうですね…彼は怖そうでしたけど、雰囲気が寂しそうに見えて油断してたら、ですかね!」
てへっ、と付け足して笑っていた。
「そうだったのか。だが、君の身体で学校の人達を傷つけたのはそいつだ」
「こんなになっちゃってるのってやっぱりあの人のせいだったんですね…すみませんでした!」
彼女は一度俯いてから、強い意志を持っている目で私の目をじっと見てきた。
「君のせいではないだろう」
「いえ、うちのせいです!確かに前世と【今】は分けて考えているので関係ないとは思ってます。でも、元を辿ればうちが油断しなければ良かったんですから!」
この子は強いな。
本当のことを言ったら自分のことまで責めてしまうのではと思ったが、【前】と【今】を分けて考えてるのなら、完全に杞憂だったな。
「君が油断したせいだと思ってしまうのも無理はないかもしれない。ならば、けじめをつけるために皆に謝ってくるといい」
「はい、そうします!まずは、笠野先輩ご迷惑おかけしてすみませんでした‼︎」
彼女は私に勢いよくお辞儀してきた。
「いや、私には先程してくれただろう。それより、何故私の名前を知っておるのだ?」
「どんなに謝っても足りないです!それと、先輩は剣道部のカッコいい主将だって人気なので!」
「そうか。私だけでなく他にもしてくれよ?」
「もちろんです!他の方はどこですか?」
きょろきょろと辺りを見渡してみる。
そこに一人の男が来た。
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