忍者

すれちがい

 一緒に教室を出て歩いた。

 歩いていると今まで特に気にしていなかったけれど、耳が良くなったからだろうか。

 ひそひそ話しているのが聞こえてくる。


「はぁー今日も騎士様が姫様を守るようにして歩いてる…」「尊い…」「学校来て良かった…」

 などなどのことだ。


「怜、先程から皆が話して騎士と姫とは誰のことだ?」

「あら、今頃気づいたの?ずっと噂されてたのに」

「あまり聞こうとしていなかったからな」

「凛はそうよね。騎士というのは凛のことよ。それで、自分で言うのは嫌なんだけど姫は私のことらしいわ」


 私のことだったのか。

 姫が怜なのは納得なのだがな。


「なぜ、私が騎士なのだ?」

「立ち振る舞いがそう見えたみたいよ。それに、私が姫と言われるようになったのも凛の近くにいたからだし」

「立ち振る舞い?」

「えぇ。いつもキリッとしてるとことか、誰かの手伝いを率先してするところとかね。あとは剣道をしてる時の姿よ」


 彼女は可愛らしくウィンクをしてみせた。

 それにしても騎士とは。私は侍と呼ばれたいのだが…


「話してたら着いたわね」

「そうだな。相変わらず混んでおるから私が買ってこよう。なにが欲しい?」

「メロンパンとコロッケパンをお願い」

「了解した」


 彼女は自分のお金を渡してくれた。

 私は人の波をかきわけて、怜のと自分のを買って戻った。


「これは、怜の分だ」


 袋に入れたパンを手渡す。

 彼女は受け取って


「ありがとう」と言った。


「礼には及ばぬ。さて、どこで食べる?」

「外にあるベンチとかどう?今日そこまで寒くないし」

「うむ、そうしよう」


 私達はベンチに行った。

 そこには誰もおらず、座れた。


「んー空気がおいしいわね」

「その通りだな」


 私はパンを一つ取り出し、食べ始めた。


「それで足りるの?」


 隣にいる怜が聞いてきた。


「あぁ、足りる」

「それならいいんだけど」


 彼女も食べ始めた。食べるのは早いのに所作が綺麗だ。

 彼女にとって食事はエネルギー補給にもなるからな。

 沢山食べたほうがいいということなのだろう。

 そう思っていたら彼女がこちらを向いた。


「そうだ、あとからって言っていた話はなんだったのかしら?」


 さすがに今する話ではないだろうと思い

「今はできない」と答えた。


「そう…でも、思い詰めないで言うのよ」

「あぁ、帰りに言う」

「必ずよ?さてと、食べ終わったし戻りましょうか」


 いつの間に…思わず笑みがこぼれた。


「そうだな、午後の授業があるしな」


 立ち上がって移動した。


 戻る途中で夢に出てきた女の子にすれちがったような気がして、後ろを振り返ったが誰もいなかったので見間違いだったのかもしれない。


 そうして、教室に戻って少し経つと授業が始まる。

 何人かの生徒が眠気と闘っているようだったが、私は集中して受けた。

 今日の授業と掃除が終わった。

 私も怜も部活があるので、帰る時は連絡をくれと言って一旦別れた。

 私は胴着を着て剣道場に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る