乗り越える

 目を瞑ると先ほどのことを思い出して悲しくなる。

 私が辛い時、相談に乗ってくれた母も支えてくれた父もいない。


「一人になってしまったのだな…」


 涙が頰をつたってこぼれ落ちてくる。


『一人じゃないよ。私がいるし、千石くんだって黛さんだっている。そうでしょ?』

 ー千緒?寝たのではなかったのか?

『誰かさんが泣いてたから放っとけなかったの!ちゃんと休めって言ったのに』

 ーもしかして私のことか。心配かけてすまない。

『もしかしなくても凛ちゃんだよ。謝らなくていいから早く寝てくださーい』

 ーわかった、おやすみ。


 一人じゃないという言葉に私は安心して眠りについた。


 その晩、夢をみた。路地裏で一人の女の子が追い詰められている夢を。

 その子はクナイや手裏剣を持っていた。

 私は戦いの行方がどうなるかわからないまま、途中で起きた。


「今のはいったい…予知か?」

『おはよ〜凛ちゃんがみた夢は、ヨチの力だよ。それと、あの子は重要な子のようだから助けてあげてね』

 ー言われなくてもそうする。

『それでこそ凛ちゃんだね。昨日のことは、もう平気?』

 ーまだ心残りはあるが、引きずってはいけないからな。走ってくる。

『そっか。普段のことしてたら落ち着くかもしれないもんね』


 私は着替えて家を出て、同じコースを走った。

 今日は少し時間が違ったから千石とは会わなかった。

 そのあと帰って、自分でおにぎりを用意して食べた。

 父が作ってくれた料理が恋しくなる。

 母が作ってくれたものも、もう一度食べたかった。

 そんなことを考えたって仕方がないので食べ終え、学校に行く準備をして出た。

 いつもの道を歩いてしばらくすると、学校に着いた。


 荒れていたようには見えない綺麗な校舎だ。

 上履きに履き替え自分のクラスに行く。


「みんな、おはよう」


 すると、女子が次々と私のところに来て


「笠野さんっ、いつもカッコいいけど昨日はもっとカッコよかった!これ、私が作ったお菓子良かったらどうぞ‼︎」や

「ずるいっ、私のも受け取って!」と言って菓子をくれた。


「あ、あぁ、ありがとう。全部いただくよ」


 全て受け取りながら、同じクラスである怜の席に行った。


「おはよう、凛。さすが、モテるわね」

「こんなにもらってもお返しできないのだが」

「別にいいんじゃないかしら?彼女達も渡したくて渡してるんでしょうし」

「そういうものなのか?」

「そういうものなの!ほら、先生来ちゃうでしょ。座っておきなさい」


 時計を見てみると、確かにそんな時間だった。

 私は自分の席に座った。

 その時、戸がガラッと開いて誰かが入って来た。


「おはよう!」


 黛先生だった。担任の先生は違うのだが。

 一人の生徒が発言した。


「うちのクラスの担任はどうしたんですかー」

「今日は体調不良で休みだ!一つだけ連絡事項があるからな〜」


 皆は静かになった。


「先日のことは、前世の力がコントロール出来なかった者が引き起こした。いわば事故だ。犯人探しをするのではなく、自分もそうなってしまうかもしれないという意識を持っておくこと!

 そして、自分の能力をコントロール出来るようになっておくのだ‼︎連絡は以上!」


 起立、礼。という号令が終わったとともにガヤガヤと騒がしくなった。


 コントロールか…と考えていたら怜が来た。


「コントロールって、難しいわね。私だったら少量のエネルギーでも使えるようにするとかかしら?」

「そうだな。私も、もっと強くならねばな」


 私は拳を握った。


「凛、なにかあった?切羽詰まってるみたいだけど…」

「怜には隠し事できないな。あとで話すから待っていてくれないか?」

「わかったわ。もう授業始まっちゃうものね」


 彼女は自分の席に戻り準備をした。

 担任の先生が来られると皆、一斉に座り出した。

 授業が始まったので、内容をノートに書き記す。

 午前中があっという間に過ぎていき、昼休みになった。

 昼食を持ってきていないので購買に行かねばと立ったら、目の前に怜がいた。


「今日は購買なの?」

「あぁ。怜は?」

「私もよ。一緒に行くわ」

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