ありがとうの暖かさ

「ふ〜みなさん類さんの知り合いだったんですね〜」

「私は違うけれどね」


 怜は私達とは違う世界で過ごしていたのだろう。

 彼女の前世がなにかは分からないがな。


「だが、怜も私達の仲間だ」

「えぇ、協力するわよ」

「わーこれが噂の騎士様と姫様ですか〜映えますねえ。私もお手伝いするのでよろしくです」

「うむ、よろしくな」


 話していたら、先程【今】の姿に戻した男性が目を覚ました。


「ん、ここは…?」

「ここは路地裏です。貴方は前世に飲まれて記憶を失っていたんです」

「え⁈うわーニュースで見たやつ…もしかして君が救ってくれたの?」

「いえ、私ではなく彼女が」


 西野の方を見て言う。


「本当かい⁈ありがとう!ろくなお礼もできなくてごめんよ……じゃあね」


 と、男性は去った。


「ありがとうって、こんなに嬉しいんですね……」


 噛み締めるように前を見ていた。


「そうだな、ありがとうは心を温かくする言葉だ」

「ずっと忍者として生きてきて、真逆のことばかり言われてきたんです。だから、もっと言ってもらえるように頑張りたいです!」


 西野も色々な事情があったのだな。

 それがなにかは分からないが、踏み込んではいけない気がする。

 いつか聞ける日がくればいいな。


「そうか。とりあえず今日はもう帰るのだぞ」

「はーい。でも、一人だから遅くても大丈夫ですよ〜」


 彼女も家に誰もいないのか…

 私は少し寂しさを感じてしまう時があるので


「一つ提案なのだが、私と住まないか?そうすれば家事も分担できるだろう?」


 と、誘ってみた。


「ほえ?いいんですか?でも、すぐには決められないので、後日お伝えします〜じゃ、私帰りますね〜」


 彼女はそう言って去った。

 私達も帰らねばな。


「すまない、待たせた」

「気にしなくていいわよ」

「そうそう!刀真も久しぶりに赤司と喋れて楽しかったってよ!」


 それから私達は、再び怜の家がある方へ歩いた。

 暗くなってしまったな。

 私が話そうとしていた家族のことも、思わぬ形で知られてしまった。

 けれど、やはり自分から言わねば。


「二人とも、歩いたまま聞いてくれ」


 私は一度深呼吸をする。


「私の両親は昨日、殺された。おそらく犯人は倉田を狙っている。なんとしてでも捕まえたいんだ」


 彼女達は静かに聞いてくれた。


「そうだったのね。苦しくないというのは、本心?」

「あぁ、私には千緒もいるし、なにより大切な仲間もいるからな」

「そっか!でもよ、また辛いとかってなったら相談すんだぞ?」

「そうさせてもらう」


 私のことをよく考えてくれていて、嬉しくなる。

 それと、可哀想と言われなくて良かった。

 そう言われると、なんだか惨めな気持ちになるのでな。


 そんな話をしていたら

「あっ、着いたわ」

 怜の家に着いた。


「うむ、またな」


 私は自分の家のある方へ向かった。

 歩きながら、千石と赤司について話した。

 最初は仲良くなかったけど、次第に仲良くなっていったのだと、楽しそうに言っていた。

 途中で分かれ道があるので、それぞれ自分の帰る方へ行く。

 少しすると家に着いた。


「ただいま」


 おかえり、という声はしない。

 いつの日かそれに慣れていくのだろう。

 私は晩御飯の支度をすることにした。

 冷蔵庫にある食材を組み合わせ、なんとかそれらしいものを作ることに成功した。


「いただきます」


 食べてみる。けれど、お世辞にも美味しいとは言えない味だった。


 —す、すまない。あまり美味しくないな

『凛ちゃん、これも個性だよ!』

 —そうだろうか?

『うんうん、練習したら上手くなると思うし!』

 —では毎日作るとしよう。


「ごちそうさまでした」


 食べ終わって食器を片付けた。

 それから風呂に行き、湯船に浸かっている。


 

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