決意
昔話
私は彼について行った。
朝も通った道だったが、違って見える。
助けてと言う声がして速く走ったから、ゆっくり景色を見ることができなかったのだ。
そう思ってじっくり見て歩いていたらいつの間にか着いていた。
「着いたな!」
彼は扉を開けた。
「おっ、誰もいねえな!ちょうど良かったな〜先生来るの待ってようぜ!」
彼が座ってあぐらをかいたので、私は隣に座った。
「あぁ、そうしよう」
「なぁ、なんも食べてねえけど腹へってねえか?」
「そうだな…母が弁当を持たせてくれたのだが、食べていいか?」
「おう!オレも母さんが作ってくれたの食べるぜ」
私達は弁当を取り出して手を合わせてから食べ始めた。
全力で走ったけれど中身は崩れていない。
黙々と食べ続けて、しばらくして食べ終わった。
水筒に入れていた飲み物を飲み、手を合わせる。
「ごちそうさまでした」
すると先に食べ終わっていた千石が話しかけてきた。
「そういや、お袋さん料理苦手って言ってなかったけ?」
「そうだったのだが、前世がシェフだったらしくてな出来るようになったそうだ」
「おっ、良かったじゃねえか!」
千石とは高校生になってから二年間剣道部で一緒だから、お互いある程度のことは話している。
彼の父が剣道の師範だから小さい頃から指導を受けてきたということも。
そんなことを考えていたら、彼がまた話し始めた。
「にしてもよ、あと一年で卒業だってのに災難だよなー」
「巻き込んですまないな」
「いいっていいって!まっ、今回なんとかなったし、もし次なんかあっても大丈夫だろ‼︎それに目的もあるしな」
満面の笑みを浮かべている。
大丈夫だと思わせるような笑顔だな。
「目的とは?」
「そりゃ、ヨシを探すことに決まってるだろ!あいつはすぐ抱え込んじまうから早くしねえとな!」
「そうだな。それと、もしや新井さんか?」
「おう!つい出てきちまった!あと新井でいいぜ。じゃ、オレは戻るな〜」
彼は一度瞬きをした。
「っと、わりいな!さっき刀真が出てっちまった」
「別にいいが、勝手に出てくることがあるのだな」
「刀真の感情が昂った時とかな〜」
「そうか」
その時、入り口が開く音がした。
「ここで間違いはないかー!むっ、合っていたようだな‼︎少々遅くなった」
そこには私達を見ている先生がいた。
「おっ、先生お疲れ様っす!入って座ってください!」
「あぁ、そうさせてもらう」
先生は私達の近くに座った。
「お疲れ様でした。お腹空いてないですか?」
「食べてきたから問題ない!さて、話すか!」
「そっすね!昔話しますか⁈」
二人は前世の話をしだした。
それぞれ【前】の人に戻っている瞬間もあり楽しそうだ。
—千緒も混ざりたいか?
『うん。でも、私を巻き込まないようにしてくれていたから、あんまり会話に入れないの』
—ふむ、それなら彼の話をするというのはどうだ?
『えっ、いいのかな?』
—きっと二人も話したがるだろう。
『ふふっ、そうかも』
私は二人の話が一通り終わったところで話し始めた。
「提案がある。倉田慶喜の話をしないか?」
「おっ、しようぜ!」
「うむ、俺も倉田の話はしたい!」
私達は彼との思い出の話をそれぞれした。
時々千緒が代わりたいと言った時にはそうするようにしてな。
こうして聞いていると彼は、ここにいる皆の人生に必要だったのだろうと思えた。
—楽しいか?
『うん!ありがとう、凛ちゃん』
—千緒が嬉しそうで良かった
「そういえば、二人は彼についていったのだろう?そのまま生きていく選択肢もあったはずなのにどうしてだ?」
私は二人の前世に質問した。
「そんなん決まってんだろ?あいつが行くのに親友のオレが行かないわけねえだろ!それにオレの悩みをヨシは受け止めて一緒に考えてくれた。だから、今度はオレの番だって思ったんだよな〜」
「俺は倉田が自分を守らず周りの人だけを守ろうとしていたのを危なっかしく思ってだな!親しくしている後輩がそんなに自己犠牲なのは嫌だからな。そして、たとえ倉田が行く道が暗くても俺が照らせばいいと考えたのだ!」
「それなら、やはり探し出さねばな」
二人は頷いて同意した。
「でもどうやって探すんだ?」
「とりあえずは学校内にいないか確かめよう」
「うむ!他にも仲間がおるかもしれんからな!」
「そっすね!でも、見つからなかったら?」
「その場合は別の策を考える」
まぁ、今も策はないのだがな。
なるべく近くにいてほしいが…
「ははっ、プランなしかよ!じゃ、意地でも見つけようぜ!」
「うむ、必ずだ‼︎」
こうして私達は決意した。
絶対に見つけるために作戦も少し練った。
「これでひとまずは良いだろう」
「だな!あーこういう時っていっつも
「勇気もそう思うようだな!倉田が最優先だが、赤司も探すというのはどうだ?」
「そうですね…作戦立案ができる人がいれば
助かりますし、そうしましょう」
今後のことを考えると仲間は多いほうがきっと、いいだろう。
「んじゃ、赤司もってことで決定な!」
「了解した。それと、もう外は暗いが帰らないのか?」
「あっ、そろそろ帰ります。では千石、先生、また明日」
二人は同時に「またな」と言った。
私は自分の荷物を持って外に出た。
すっかり暗くなっている。
それに気づかないほど話すのに夢中になっていたのだな。
今日は最初こそ非日常であったし、【前】のことをまだよく知らないけれどかつてのつながりが【今】もあるというのはきっと、奇跡のようなものではないかと思う。
そんな縁を大事に日常を過ごせていけたらいい。
………でも、日常というのはいとも簡単に崩れてしまうのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます