騒動

 大きな叫び声がした。

 何人もの人が叫んでいるようなそんな声が。


『凛ちゃん、楽しい時間はここまでみたいだね……』

 —そのようだな……場所は?

『人通りが多いところ、かな』


 一通りが多いところとは、なんとも分かりづらい。

 だが、それしか分からないのならば仕方がない。


「すまない、二人ともついてきてくれないか?」

「こんな叫び声を聞いておいて行かないわけないでしょう」

「大変なことになる前に防ぎますよ〜」


 それを聞いて、私は走った。

 怜と忍もついてきてくれている。

 ひたすら走った。

 大勢の人を救うために。

 そして、その惨状を目にした。


「なん、だ?これは……」


 そこでは、同じ顔の人たちが同じ動きをして戦っていた。


「こんなこと、ありえるの?」

「ありえないですよ!こんなの」


 なんらかの能力が使用されているとしか、考えられない。

 探してみせる、発生源を……


『見つけたよ』

 —本当か⁈

『うん。集団の真ん中にいるみたい』


 集団の真ん中か……

 こんなに人が多い中での真ん中か。

 どうにかして進むしかないな。


「よしっ、行くぞ!」


 後ろについてきてくれている彼女達が返事をした。

 私と忍は攻撃をし、怜の壁に守られながら進んでいく。


「怜、エネルギーはあるか?」

「えぇ、沢山食べたし大丈夫よ」


 そうして、たどり着いた。

 そこには一人の男が立っている。


「君達がクウくんの言っていた子達カナ?」

「クウ、とは誰だ?それと、この惨状を起こしているのは君なのか?」

「あれー?君達の誰かが、晴間千緒ちゃんって子の【今】なんデショ?あと、これを起こしてるのは僕ダヨ」


 やはりこいつだったのか。

 それに、クウとはもしや手紙の奴か?

 それならば、奴のことを聞き出せるかもしれない。


「私がその【今】だ。私に用があるのなら、他の人達に手を出すな。能力を解け」

「えーヤダよ。面白いショーが始まってるのにサ」

「なら力づくでいくまでだ!忍、頼む」

「はいっ、類さんいきますよ〜」


 彼女は赤司と意識を交代した。


「やってやるよ!赤光銃弾レッドライトバレット‼︎」


 銃弾が敵の方へいき当たると思われた。

 だが、違和感を覚えた。

 あいつが笑っていたように見えたのだ。


「ショーキャストがまた増えたネ。ようこそ影人形シャドウドールの舞台へ」


 その瞬間、忍と同じ姿のものが出てきて赤司の力を使った。


「くそっ、なんなんだよ!撃ったら撃ち返される。どうしろっつーんだよ!」

「なんだ、その能力は?」

「ン?簡単なことダヨ。能力が使える人と同じ力が使える人形を出してるノ。全く同じ動きをするから戦いづらいデショ?」


 そんな仕組みだったのか。

 戦いづらいのは本当のことだ。

 いったいどうしたものかな。


「あら、防御に徹した能力ならどうかしら?」

「それなら舞台に上がらせてあげるヨ」


 怜の姿をしたものも出てきた。


粉壁パウダーウォール


 同じ壁ができている。


「へぇ、本当に全く同じなのね。では、戦闘力は?」


 彼女は自分の姿をしているものに、蹴りや拳を繰り出した。


「そういうのはちゃんと対策しているからネ。僕の子達の方が強いよ」


 彼女は自分自身に押されてしまっていた。


「さて、あとは君だネ。でも君の能力は面倒だって聞いてるから、人形達に任せちゃうネ。ちなみにその人形を傷つけたらその姿の人間も同じことになっちゃうからネ」


 私の周りに、他の人の能力を使う人形が集まってきた。

 私は囲まれてしまった。

 そして、私に攻撃が繰り出されていく。

 反撃しようにも、傷つけてはいけないから出来ない。

 この状況、どうすれば?

 そんな時、声がした。


「なんやけったいなことなっとるなあ」


 この声はもしや……

 その人は周りの人形を蹴散らしてきた。


「こんなもん?つまらんなあ」

「やはり師匠!なぜここに?」

「おっ、笠野やんけ。久しぶりやな〜なんでって、遊びに来てただけやで?」

「そうですか。それより師匠、その人達に傷つけてないですよね?」

「当たり前やん。一般人にそないなことするわけないやろ」


 師匠が来て、周りの人を傷つかせずに動けないようにしてくれた。

 これで、形勢逆転だ。

 だが、師匠は能力がなくても強い。

 それなのに、師匠の人形がいたら確実に戦いづらくなる。

 そんなことを考えていたら、師匠が狙われていた。


「また僕のショーに一人増えるんだネ。嬉しいヨ。影人形シャドウドール!」


 奴は人形を出そうとした。

 けれど、待っても出てこなかった。


「アレ?なんで出ないノ⁈君は能力がないノ?そんなはずはないのに……」

「そんなん知らん。能力てなんなん?」

「師匠は前世を思い出していないのですか?」

「前世?前世てなんなん、ワシはワシやで?」


 それはすなわち、思い出していないということだ。

 クウという奴は、全人類の記憶を思い出させたということではなかったのか?


『きっとその人は、唯一奴の能力から逃れたんだと思う』

 —そうか、さすが師匠だな。


 私は師匠にこれまでのこと。そして先程、千緒が言っていたことを話した。


「ほーん。そんなんなっとんたんやなあ。昔は、前世の記憶持っとる言うたら遠巻きにされとったんに、今では持ってない方があかんのやな」

「私はそうは思いませんよ」

「ありがとうな。まあ、そのおかげでそいつと戦えるんやから、ええんやけど、な!」


 師匠は太ももにあった武器袋から短剣を取り出して切りかかった。


「あーもう僕自身が舞台に立たなきゃじゃないカ。面倒だけど頑張るヨ。僕の名前は影路青かげみちあおダヨ。よろしくネ」


 影路はトンファーを取り出して短剣を防いだ。


「へえ、少しは骨がありそうな奴やんけ。楽しませてくれなあ」


 彼は目をギラギラさせ、何度も短剣を払った。

 だが、それは影路に防がれてしまう。

 それでも追撃していく。


「久しぶりにこんな楽しめる相手で嬉しいなあ」

「僕は疲れるだけだから嫌なんだけどネ」


 二人は凄まじい攻防を繰り広げていく。

 その瞬間、勝負が終わったと言うかのように、トンファーがアスファルトに落ちる音がした。


「あー終わってもうたなあ」

「僕の武器が……負けたヨ」

「ほんならさあ、君の能力?ちゅうやつ解いてくれへん?同じ人が何人もおんの嫌やわ」

「敗者は勝者に従う。解くヨ」


 影路が能力を解除すると人形は消えていった。


「僕は消えるけど、君達に一つ忠告ダ。クウくんは強いヨ」


 そのあと、影路がいたところには誰もいなくなっていた。


「消えた、のか?」

「そうみたいやなあ。ふー楽しかった。そういや、クウって誰なん?」

「あ、それはですね……」


 説明しようとした瞬間、目の前が暗くなった。

 これは、あの時と同じ?

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