第16話 悲惨の果て

 父は当然逮捕された。状況的に死刑、もしくは無期懲役だろう。


私たち家族にも大きな影響が出た。家を特定した報道陣、野次馬、そしてEmiRyのファンもこぞって駆けつけた。


父と母、そして私の三人家族だったため、残った二人の母子にその非難や不満がぶつけられた。


 この世のものとは思えない罵詈雑言の数々。まさに生き地獄。


 何度も頭を下げ、何度も涙を流した母は疲れ果て、どんどんやつれていった。


しかし、報道陣や野次馬の非難は止むことが無かった。


そしてある雨の日の次の朝、私が強い日差しで目を覚まし、リビングへ行くとそこには、大きなてるてる坊主が出来ていた。


 その日は、良く晴れていた。家の前にあった雲も、その日は嘘のように無くなっていた。



         10



 涙が出た。あの日から激変した私達の暮らし。あの地獄のような日々、その末路。最悪だ。


 「…大丈夫、じゃないな」


 「うぅ…う、うわあああぁぁぁ!!あああああっ!!」


 自分でも信じられないぐらい大きな声で泣いた。あの日も、こんなに泣いていただろうか。


 泣き止むまで、男の子は待ってくれていた。


 少し落ち着き、ようやく立てるようになり、あのEmiRyに似た人の元へ行くこととなった。


 ペンダントを、返さなきゃならないから。



         11



 もう一人の人とも合流した。この人はEmiRyによく似ている。もっとよく見たいと思った。でも今は、少し目を合わせたくなかった。


 「ペンダントは揃ったみたいね」


 「ああ、彼女が二つ。俺達で二つずつだ。観測者の元へ行こう」


 「……。」


 何も考えたく無かった。急に色々なことを思い出してしまって、何をすれば良いのか分からなくなってしまった。


 しばらく歩いていると、彼女の元へと着いた。彼女はEmiRyによく似た容姿でこちらを微笑んでいた。


 「ペンダントを見つけて来てくれた?」


 「……はい、全部で四つ、です。」


 「そうかい!じゃあ、君の手でその四つのペンダントをこの額縁に入れてくれないか?」


 「………いや、です」


 「…ん?」


 「ッ!」ダッッ!


 「お、おい!」


 「待って!」


 知らないうちに走り出していた。あの世界に帰りたくないって思ったから。


 とにかく遠くへ走った。見つからないように、あの世界に帰れないように。



         12



 あれから、どれだけ走っただろう。誰の足音も聞こえなくなった。途中でアイツにも追いかけられたけど、いつの間にか何処かに消えていた。


自分でも信じられないぐらい速く走った。帰りたくないという力のお陰なのだろうか?


 「はぁ……はぁ…」


 どうしたら良かったの?何処から間違ったの?私のせい?いや、違う……


 結局私は何も出来ていない。気がついたら自分の周りが変わってたんだ。


 もう、そんな世界、いらない。


 何処かもわからず歩いていると、アイツが現れた。


 「……はは」


 「クウクウクウクウクウクウクウクウクウクウクウクウクウゥ!!」


 こちらに向かって走ってくる姿に、私は両手を広げて待った。


 「もう、いいよ」


 私は、諦めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る