ファーナーティクスへの福音

ベアりんぐ

第一章 書物と少年

第1話 あなたは何を信じるか?







※この物語はフィクションです。

登場する人物、団体、事件は全て架空です。また、この物語は犯罪行為や暴力を助長するものではありません。


また、この作品は「アルファポリス」、「小説家になろう」でも掲載されています。
















       独白



 ある人を、信じていた。いや、信じていたでは済まない感情を抱いていた。


 それが愛なのか、憎しみなのか、嫉妬なのか、憧れなのか区別がつかぬまま、ここまで来てしまった。


 なんで。

 どうして。


 そんな言葉ばかりが自分の頭の中をぐるぐると巡っていた。


 信じるでは飽き足らず、挙げ句の果てには崇め、神とさえも認識していた。


 全く恐ろしいものだ、人間というものは。なにかに縋らなければ生きていけない。それが身近にあるものでも、神格化することで安寧を図ろうとするのだ。


 信じる者が救われることは無い、と私は思う。少なくとも私は救われなかった。そして救うことが出来なかったからだ。


 だけどもし、救われる者がいるのならば、救える者がいるのならば。きっと私は救うのだ。


 だって、私の信じる、崇める、神がそう言っていたのだから。






 「きっと、あなたは救うよ」


 「……見捨てるかもしれない。他の子のように。」


 「ううん。きっとあなたは救う。そして、あなたも救われるの。」






 …こんな過去のことを思い出したとして、いったい何になるというのだ?


 こんなことは忘れてしまえ。頭の奥に捨ててしまえ。一人でこんな告白をしても何も変わらない。


 私は私だ。あの子じゃないのだ。



       0



 「はあ、…今日も行くとするか」


 6畳の部屋で存在を知らしめんとする19インチテレビを消し、午後7時に家を出た。


 階段を下り、毎日通る道に出る。本来右に行く方が目的地に近いのだが、私はいつも左の道を行く。特に理由はなく……いや、きっとあの子の真似をしているのだ。そんなつもりはなくても、いつの間にかやってしまう。


 左の道を歩いていると、いつもとは違う者がいた。なにやら様子がおかしい。


 目を見開き、体を反らして立っている。口で小さくなにかを呟き、その度に手に持っている本のページを一枚一枚破いているようだ。


 「…出たか」


 このような者は、これで何人目だろうか。その度に様子が変わっている。規則性があるのか無いのかは分かっていない。


 「おい、大丈夫か?」


 「我の罪故に死す也。以て贖罪と為す。三葉見た者、言葉の力となりて業と為す。偏愛也偏愛也偏愛也。運命玉砕自由天災闘争から奔走へ。消える、消える消える消える消える消える消える消える消える消える消える!!!!!!!!!私が消えてしまう!!あぁ、神よ!お許し下さい!かの者の楽園へとお送り下さい。枯らすことで命となり、種子は死となす。なんと罪深きことなんだぁ!消えてなくなれぇ!!!!!」


 「………」


 どうやら私の言葉など聞こえていないようだ。


 「……すぐ、楽にしてやる」


 いつも通り、いつも通り。行くか、あの世界へと。


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