第2話 見えていなかった世界

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 …ここは、何処だ?俺は、何をしていたんだっけ?


 高校からの帰り途中だったはず。なのにどうして今まで気を失っていて、気がついたらわけも分からない場所に来てしまっているんだ?


 「なんなんだ、ここ?」


 一見図書館の様に見えるけど、明らかに違う。


 見渡す限り本があって、天井にも図書館が貼ってあるかのように存在していた。


 見たらわかる。ここは現実じゃない。


 「…夢でも見てるのか?」


 自分で頬をつねったものの、痛さしか感じなかった。その後追う様に不快感を感じた。


 とりあえず、先に続く道を歩いてみることにした。


 しばらくすると、明らかに本棚から本が抜けたであろう空白があった。何故だかそれが気になって仕方がない。


 「やあ!この世界に何かようかい?」


 「!うわっ本棚が喋った!?」


 動いてはいないが、確かに喋った。いや、喋ったというよりも頭の中に勝手に流れ込んでくるみたいだ。


 「お前は一体なんなんだ?」


 「僕かい?僕は本棚。本という対象を集合させるものさ。ただそれだけのもの。」


 「そんなことは知ってる!そこじゃないんだ。何故喋れる?この世界はなんなんだ!?」


 「まず、喋れるのはこの世界だからだ。そして、この世界は君が生み出したものだよ。」


 「!?なに訳のわからないことを言ってる!真面目に答えてくれ!」


 「ハナから真面目、大真面目さ。ここは君が信じて、崇めて止まない本という対象物が力を持ち過ぎた世界さ。もっとも、こうなってしまった以上君はここからは簡単には出られないし、干渉も出来ない。」


 「そんな!…出口は存在するのか?」


 「…ああ、出口は存在する。するが、少し厄介な者がいてな。この世界でお前を狙っている。」


 「?一体そいつはなんだ?」


 ……返事がない。何故だ?さっきまであんなに頭に声が入ってきていたのに、急に喋らなくなったぞ?


途端、前方から何か近づいてくる者がいる。人の様だ。


 「おい、そこの人!何してるんだ。ここはどうやら危険なーー」


相手の姿がハッキリと見え、瞬間体に震えが走った。


だって、相手の顔が、俺にそっくりだからだ。


 いや、顔だけではなく、いで立ちまでそっくりだ。だけど、顔には何やら紙のような物が刺さっている。


 「……ミツケタ」


 「…え?」


 「ミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタァァ!!」


 「ひっ!?」


 ヤバい。明らかに普通じゃない。とにかく、捕まらないように逃げなきゃ!


図書館の様な空間をひたすら走っていた。だけど、あの俺みたいなやつは一向に撒ける気がしない!


 「はぁ…はぁ…」


足の感覚も麻痺してきた。だんだん距離が縮まっていくのを、足音で感じていた。もう、ダメか--ー


 「!あれは!?」


女の子?何故ここに居るんだ?


 「いた!あなた、走って!」


 よく分からないが、この世界のことを知っているのかも知れない!無我夢中で走った。依然として距離を縮められていたが、お構いなしだ。


 「うおぉぉぉ!!」


 最後の力を振り絞り、彼女の元へと走った。

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