第21話 その血とその眼差しで

 観測者と神擬キを殺す…!?

 

 そんなことが本当に起こりうるのか?


 「今、そんなこと起こり得ない、とでも言いたそうな顔してたぞ~。でも実際あるんだよねぇ、これが」


 「私も助けようとした人の中に、神擬キを殺そうとして返り討ちにされた人がいたわ。一定数いるの、そういった人は。」


 「そう、なのか……」


 そもそもこの神化世界も謎だらけで、存在する意味も分からない。


 「それで、その神殺シ達が厄介な理由ってのがあるんだ。」


 そう言うと登さんは、えーオホン、と可愛らしい咳払いをしてから説明を始めた。


 「神殺シをすると、自身の精神部分が隠し持っていた"ある能力"を使えるようになるんだ。俺はそれを 幻影イルゼオン と呼んでいる。」


 「幻影……」


 「でも、あの男は幻影を使っている様子は無かった……あの銃が、そうなの?」


 「まだ分からないが……もしこれからも誰かを救うというなら、気をつけてくれ。彼らは危険だ。」


 神殺シ……まだどんな奴がいるか分からないが、幻影を使われたら何かまずい予感がする。


 俺と榊がそれぞれ考え込みながら座っていると、登さんは榊に出されたコーヒーを一気に飲み干して立ち上がった。


 「ま、兄妹の心配は家族として当然だからね。気をつけてね~」


 そう言うと、榊が勢いよく立ち上がり登さんの胸ぐらを掴んだ。


 俺は一瞬何が起こったか分からなかった。


 榊はまるで鷹のような目で睨みつけていた。しかし、登さんは笑顔だった。


 「あんた、それ本気で言ってるの…!!」


 「もちろん!心配して、何が悪いのさぁ」


 「あんたがしたこと、私は一秒たりとも忘れてない……!二度と来るな」


 胸ぐらを離しながら投げるように腕を振る。登さんは少しよろつきながらも、またその両足で地面をしっかり掴む。


 終始、笑顔だった。


 「また来るよ、希」


 そう言うと扉を開け、事務所から出ていった。


 俺はただ唖然として、立っていることしか出来なかった。





         %





 希にあんなふうに言われるのも仕方ない。だって、それだけのことをしたから。


 でも俺はーー


 それでも、俺はーー






 両親を、殺したかったから。






 「は~あぁ」


 「やっと出てきましたね」


 張り付いていた笑顔が消える。


 「なんだ、来たのか春奈」


 「うん、だってあまりにも来ないから」


 「当たり前のように俺の居場所を特定するなよ。お前が来なくたって行くさ」


 そう、お前が来なくたって行くさ。


 妹を止めるために。これ以上、クソみたいな都合に巻き込ませはしない。


 「行くぞ」


 春奈が歩き出し、俺も歩き出す。


 全ては7年前の誘惑から始まった、業を業で煮る蠱毒の果てに。


 俺が、終止符を打つ。


 












         5













 登さんが出ていってから事務所の中には沈黙が横たわっていた。


 少し聞きづらいが、榊にはさっきのことを聞いておく方が良いと思った。


 「なあ榊。登さんは、一体何をしたんだ?」

 

 榊は最初戸惑うような素振りを見せたが、それはほんの一瞬だった。


 「あいつは、私の両親……自分自身の両親を惨殺した。発見したのは私だ。」


 「!!」


 「私が発見した時、あいつは両親の目を泣きながら食べていた。私の記憶はそこまでだ。」

 

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