第12話 いつかの君に
俺は目を疑った。まさか、神擬キか?いや、違う。あれはーー
「やあ、久しぶり。元気にしてたかい?」
「!お前は!」
観測者だ!でも、姿形が全く違う。本棚の姿から、俺そっくりになっている。違うとすれば、所々に割れ目のような模様が入っていることぐらいだ。
「いつかまた来ると思っていたが、まさかこんな早く来るとは思っていなかったよ」
「…何故来ると思ったんだ?」
「彼女さ。彼女が入って来た理由が助けるためなら、君も協力すると思っていた。そして他人の世界に踏み込むには、この空間を経験しなければならない。」
「どうして知ってるんだ?」
「いや君、精神の世界に個は基本存在しないんだ。だから、本能的にそれが分かるんだ。多分、彼女もまたそのような手段で来たことも。」
観測者は分かっていたのか。
この空間に居ると、何故だか不思議と安心する。まるで、本当の母親に抱かれて寝ている犬や猫のような顔になってしまいそうだ。
そんなことを思っていると、急に世界が薄れてきた。
「なんだ?世界が薄れてきているぞ」
「ああ…きっと彼女だろう。起こしているのさ。
なあ、いつか彼女も連れて来てくれ。改めてお礼がしたい。頼んだよ」
「ああ、伝えとく」
束の間の再会だったが、あの約束を続けている姿を見せることが出来て、良かったと感じていた。
5
目覚めた俺は、ソファに寝ていた。
「目、覚めた?」
起き上がりながら、観測者が居たこと、感謝を伝えて欲しいこと、そしてまた会いたいと言っていたことを話した。
「……そう、なら近いうちに行きましょうかね」
「そうか、それは良かった。所で観測者の姿が違っていたが、あれは何だ?」
「私は、
「へぇ…なんか不思議だな」
「それじゃ、神化世界とも繋がったようだし、そろそろ行きますか」
「分かった」
神化世界を開いた人間は、時間内に出現するようだが、どこに現れるかは分からない。
だから、近くを見回るようにして探すしかないそうだ。ずっとこれをしてると思うと、彼女の労力は計り知れない。
ソファから腰を上げ、外に出ようとした瞬間ーー嫌な気配を、ビルの屋上から感じた。
「なあ、誰かビルの屋上に居ないか?」
「どうしてそう思うの?」
「いや……なんか、イヤ~な感じがしてな。どうしても気になるんだ。」
「!」ダッッ!
「え!?ちょ!?」
急に榊が走り出したため、急いで追いかける。階段を走る音がやけに低く鈍く響いていた。
屋上の扉から入ると、そこにはある女性と、榊が呆然としている姿があった。
女性を見る。明らかに様子がおかしかった。目を見開き、泣きながら何かを呟いていた。
「彼女は私彼女は私彼女は私彼女は私私と彼女私と彼女私と彼女私と彼女一緒一緒一緒一緒一緒一緒一緒一緒私のもの私のもの私のもの私のものわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしはかのじょかのじょかのじょかのじょかのじょかのじょいっしょいっしょいっしょ…」
「こいつもしかして!」
「ええ、完全に神化世界を開いた狂信者よ。いくよ!」
そう言うと彼女は女性の頭を触り、目を閉じた。そしてそのまま倒れるように入っていってしまった。
「そうやって入るんだな!」
俺も同じように、女性の頭を触った。すると、どんどん意識が遠のいていき、吸い込まれるような感覚を感じながら、俺は意識を失った。
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