第13話 プライドインターミナル

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 「ほら!起きて!」


 目を覚ますと、榊が起こしてくれていた。こう顔を近くで見ると、中々の美人だと思う。


いや、今はそれどころじゃない!ここは確かあの女性の世界だ。一刻も早く助けに行かなくては。


 辺りを見渡すと、そこには自分の神化世界とは全く別の世界が広がっていた。


 そこら中にある女性の写真があり、ある種のグッズのような物もあった。この写真の人物、何処かで見たようなーー


 「これ、榊じゃないか?」


 そう、榊に似てる。白っぽい髪に凛とした顔立ち。そして目を惹きつけるような赤眼。やっぱり似ている。


 「違うわ。これ、アーティストの EmiRy《エミリー》 よ。」


 「そんな奴いたか?俺は知らないぞ」


 「あなたが知らないだけで、結構有名な人よ。なんだか私に似てるけど。」


 そんなアーティストがいたとは知らなかった……それにしても、榊にそっくりだ。


 「世界がこんな風になってるって事は、恐らくこのEmiRyが信仰の対象みたいね。」


 「やっぱり人も信仰の対象になるのか?」


 「ええ、そうね。私と同じように……」


 バアァァァン!!


 「何コイツ!?いやぁぁぁ!!」


 「イッショイッショイッショイッショイッショイッショイッショイッショイッショ!!!」


 もの凄い勢いで扉が開き、ビルの屋上に居たと思われる女性と、榊に似ていながらも、明らかに狂ったような雰囲気の化け物がこちらに走って来ていた。


 「あれは!」


 「ええ!神擬キよ!」


 「あれ!?人!?誰でも良いから助けて!!」


 「オナジオナジオナジィ!!」


 彼女と一緒に、神擬キから逃げる。かなり速いが、なんとか撒くことが出来た。


 「ハァハァ」


 「はあ……助けて、くれて、ありが、とう」


 俺と榊、そして彼女三人で息を切らしながらも、状況の説明をすることにした。


 「いい?あなたは、この世界に閉じ込められてるの。出れなければ、あなたは世界から消えてなくなるわ」


 「え??そんなの嫌だよ。どうすればここから出られるの?」


 「ここに来るまでに、他にも喋る奴は居なかったか?」


 「喋るやつ……あ!あなた!あなたにそっくりな人が居た!」


 「わ、私?」


 「そうそう!その人が出口の手掛かり?ならコッチ!」


 そう言うと彼女は、足早に歩き始めた。どうやら、一刻も早くここを出たいらしい。


多分、俺もそうだった。こんな所、一刻も早く出たかった。だけどーー


 「なあ、記憶の欠片を集めるとなると、出たくなくなるんじゃないか?」


 「…そうね。」


 「なら先に言わないとマズくないか?予め教えた方がーー」「ダメよ!」


 榊が声を荒げた。こちらをキッと睨みつけている。


 「先に教えてしまうと、この世界での観測者の役割が潰えてしまう。そうなると、どうなると思う?」


 「……どうなるんだ?」


 「この世界は自然消滅する。」


 「!!」


 「神化世界は非常なまでに手順通りなの。私も最初、知らずに教えてしまった。そしたら、自然に世界が消滅しだしたの。私は出ることが出来たけど、狂信者は、この世から消えてしまった。」


 「……そうか、迂闊な事言って悪かった。」


 「いいえ、私がちゃんと言ってなかっただけ。気にしないで」


 そんなことがあったのか。だから俺の時もあえて言わなかったのか…。


 「とにかく、この世界から彼女を救うのよ。いい?」


 「分かった」


 彼女を救う。俺は、榊のように救うことが出来るだろうか?彼女のようにーー

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