第5話 記憶

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 喋る本棚の元へ行く途中に、彼女からあることを教えてもらった。


 「あなたの言っていた喋る本棚。私はそういう物や者を 観測者ゲイザー と呼んでる。その名の通り、彼らはほとんど観てるだけなの。質問をすれば返してくれるけど、決して出口を教えてくれる訳じゃない。」


 確かに、あの本棚……観測者は、質問したら答えてくれたけど、出口の場所は教えてくれなかった。


 「観測者は、精神と体の両方から成り立っている。だからどちらの味方でもないの。逆に言えば、どちらの敵でもない。」


 不思議な話だ。でも、なんとなく分かってしまうのは、この世界が俺の生み出したものだからだろうか。


 「あったわ。あなたの言ってた喋る本棚。観測者が。」


 見ると、確かにあの本棚だ。よく見ると他の本棚よりも大きく、それなのに収められている本が少ない。


 俺は観測者に話しかけてみた。


 「なあ、あんた。さっき会った俺だ。一つ質問していいか?」


 「おやおやさっきの君じゃないか。出口は見つかりそうかい?」


 「あなた、教える気が無いのに何を言ってるの?」


 「!!何故この世界の創造主以外が居るんだい?それに君……どうやら面白そうな子だね。君の背後にまた一人誰か別の子が視えるみたいだ。」


 彼女の視線が揺れる。俺でも分かるぐらいに動揺したようだが、観測者の言った言葉と関係があるのだろうか。


彼女の背後に視えるもう一人とはいったい誰のことだろうか。


 彼女は喋るのをやめ、俺が質問するように目線を合わせてきた。やはり何かあるのだろう。


 「質問だが、あんたの本棚はどうして隙間が多いんだ?他の本棚よりも立派なのに、他の本棚と違って埋まってない。残りの本は何処にあるんだ?」


 「おやおや、そこに気がつくか……確かに、ここにあった本達はこの世界が出来た時に散らばってしまったよ。」


 「その本を全部見つけてきたら、出口を教えてくれないか?」


 観測者は以外にもすんなり了承してくれた。


 「それじゃあ、集めてきてくれ。集めて来てくれたら、君の言う出口を教えよう。」


 「本当か!なら、今すぐにでも集めてこよう!」


 出る手掛かりが掴めたのなら、話は早い。早速本を集めてこよう。


パッと見ただけだが、間隔的に本は四冊程だろうか。中々広いこの世界だが、きっとすぐ見つかるだろう。


 「なあ君!手掛かりが見つかったんだ!早く探してしまおう!」


 「…手分けして探そう。それぞれ二冊見つければ良いだろう。」


 「そうだな…じゃあ右を頼む!俺は左に行って探してくる!」


 俺は彼女と観測者を残し、左側の道へと歩みを進め、駆け出した。



       #



 私は、まだ観測者と話をするために 狂信者ファーナーティクス と分担作業を選んだ。


 「ねぇ、あなた。彼になんで隠したの?」


 「……なんのことだい?」


 「とぼけないで!あなたの本を集める程、彼の現実の、最悪の記憶を呼び醒ましてしまうことを。どうして?」


 「……僕は、彼の手助けもしたいが、精神とも同期している。完全な味方をするわけにはいかないのさ。それに……」


 「それに?」


 「出口をあげるには、この方法しかないから……」


 「………。」


 やはり。どの世界でもこうなってしまうようね。薄々気づいていたけど、この世界を乗り切るには、本人の現実や現状に向き合う必要があるのね。




 向き合いきれない人は。




 それでも、私は私の出来ることを。あの子が、救われるためにも。


 

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