第二章 女神と信者

第10話 一寸先は闇かもね

         ×


 信じていたって、他人だから。

 結局裏切るんだ、最後には。


 

 信じてたのにーー



 いつの間にか私は、自分の部屋から歩き出し外へと向かっていた。


どこか遠くへ行きたい。そう思った。


 ビルを登る。4、5階はあるから、遠くへ行くには十分な高さだ。


強い風が吹いて、髪が靡くのを見ていると、何故だか少し気持ちが和らいだ。


 「ここじゃない、何処かへ。」


ビルの端に立ち、下を見る。

足がすくむ。

いやーー


 その瞬間、フッと意識だけが落ちていった。いや、体も落ちているかも知れない。


 まあ、それでも良いのかもね。





 第二章 女神と信者





         独白


 彼女はよくこんなことを言っていた。


 「あなたに、福音は訪れた?」


 「え?」


 「……ううん、やっぱりなんでもなぁ~い」


 あの頃の私は、時々彼女の言っていることの意味が分からなかった。


常に一緒に居たのに、分からないことの方が多かったのかも知れない。


 だけど、今度は私が彼にその言葉を使った。何故か口からこぼれるようにして出た言葉だった。


いつまでも、彼女を引きずっている。


 「救ってね」


 彼女が言う。だから、私は救う。


 いつまでも、変わらないのはそこだけ。福音を、聴かせるだけ。



         1


 朝起きて高校に行き、授業を寝ながら受けて、そして帰宅。


 いつもと変わらない時間の動き。だけどーー


 「幸助?」


 「どうしたの?」


 「あの…ご飯作ったから、そろそろ…あの、冷めないうちに食べちゃってね」


 「ああ…うん」


 あの一件以来、学校でのイジメや母親の否定は消えた。


今までやってきたことは無くならない。だから、こんな感じでお互いどのように接したらいいのか、分からなくなってしまった。


学校でも腫れ物扱いだ。今まで散々イジメてきた奴らも、今では近寄りすらしなくなった。




 あの事件の後、事務所で話を終え帰宅すると、母親が家の外で立っていた。


 「……!!こうす、け…」


 「…ごめん、片付けするよ」


 「あ………。」


 あの日、俺が暴挙に出た音が近所中に響き渡り、翌朝噂になったようだ。


そしてその近所にはあの担任も居たようで、何があったか詳しく聞かれることとなった。


 「イジメが原因だと考えられます。」


 そう言ったのは、母親だ。俺じゃない。


 そこから担任の指導の元、クラスや学年で徹底的な摘発があった。イジメをしてた奴らが寄らないのはこのため。そしてもう一つ、母親が全て誤った情報だったと近所中に言って回った。俺の出自についてだ。


 噂を流した本人がデマだと言ったなら信じる他ない。勿論、イジメをしてた奴らもそう思わざるを得なかった。


 変わったけど、何一つ変わっていない。俺は俺に約束したんだ。必ず一つずつ変えていくんだと。


 夕飯を食べて部屋に戻ると、彼女からの話を思い出していた。




         2


 「あなた、事務所に入らない?」


 「……え?」


 「あなたにはその資質がある。私と同じようにね」


 「イマイチ話が見えてこないんだけど…」


 「あなた、私がどうやってあなたの神化世界に入ったと思う?」


 「そういえば…どうやったんだ?」


 「私の神化世界と簡易的に同化させたの。そうすることで、あなたの世界に扉が出来るの」


 「それが、俺にも出来るのか?」


 「ええ。一度神化世界を開いた人間は、不安定な神化世界に入ることが出来るの。」


 「…今までも、そうやって人を助けてきたのか?」


 言葉が詰まる。沈黙が走る。

やがて、彼女は口にした。


 「あなたが初めてなの」


 「……まさか」


 「ええ。あなたが考えているように、今まで私が入った世界でこちらの世界に帰ってきた人は、あなただけ」


 「そう、なのか…」


 やはりみんな、現実から逃げたいと思っているのだ。


 「今まで一人でやって来たけど、やっぱり一人じゃ限界がある。そこであなたが加われば、もっと救うことが出来る。」


 彼女の何が、そこまでさせるのか。

というよりーー


 「さっきしれっと言ってたが、神化世界を、開けるのか?」


 「ええ。かなり自由に開くことが出来る。そして、私も神擬キと観測者との和解を一応通じてこっちの世界に無事、帰ってきたわ」


 「自力か…すごいな」


 「……ええ、まあそうね。とりあえず、おおまかにはこういうことなの。だから、事務所に入ってほしい。」


 正直、さっき世界から出て来たのでまだ頭は混乱している。けどーー


 「やるよ。是非力になりたい。」


 「…ありがとう」


 とにかく、俺は俺に出来ることをする。誰かにも、福音が届くようにーー

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