第8話 呪い、呪われる者の歌
7
「………う。」
ビチェ、ペチェ、ベチャ。
吐いた。吐瀉物がさらに腹の底から来る。
ベチョ、ピチュ、ベチャア。
自身の生い立ちを知り、生まれてくるべきじゃなかったと言われた意味を知った。まさにその通りだ。
若い女性は、俺の義理の母親だろう。そしてその妹と母の恋人との呪われた子が俺だ。
「…気持ち悪い」
何が愛だ。どうしようもなく歪み、愛憎と成り果てた結末がこれなのか。
「なんで、俺は……」
惰性で歩みを続ける。
彼女との会話を思い出す。いや、思い出すには頭が曇りすぎている。
それでも。
8
道中、来た道が精神的部分であるアイツが活発になったのか、塞がれていた。
それに伴って道を進む。アイツのしつこさも、活発になったからかさらに磨きがかかっていた。
「コロス、モラウ、チョウダーイ!!」
精神がああして壊れたのは現実の俺の責任だ。もしくは、ああなって神と一体化しようとする運命にあったのかも知れない。
このまま、運命に身を投げてしまおうか?もう無理して帰る必要も、無いんじゃ無いか?
もう、彼女がどうしてここに来たのか聞くのも、面倒くさいな。
「……ははっ。」
乾いた笑いが宙に響く。いや、頭に響いた。アイツが近づいた、その時。
「何してんのよ!」
そこには彼女が居た。向かいの扉から出て来たようだ。
「なに突っ立ってんの!早く!」
「俺はもう、動けないさ。だって…」
だってもう、現実に帰る必要性がない。帰っても、本当に帰る場所が無いのだから。
「自分の過去がなによ!まだ生きたいんじゃないの!?」
なんで、そのことを…
「あんたは、関係ない!何も呪われてなんかいない!祝福されるために、生まれてきたのよ!」
どうして、どうして。
君はどうして。
今一番欲しかった、生きている中で欲しかった言葉を、こんな俺にくれるんだ。
「ノロワレタコ……イムベキコ!!」
アイツの言葉がはっきり聞こえる。もう距離は近い。
でも。
「くぅぅ……うあぁあんああぁ!!!」
泣きながら、無様に。生きるために走り出した。
彼女が居る。向かいの扉には意外にも距離があった。追いつかれてしまいそうだ。それでも。
「ああっがぁぁうぁああ!!!」
扉に、彼女目がけて走る。はしる、はしる。
それでも生きたいと願って欲したから。
部屋に飛び込む。扉が閉まる。
なんとか逃げ切ることが出来たようだ。
「はあ……!はぁぁー!」
生きてる、生きてる。
生きてる!
「どう?今の気分は?」
周りを見た。アイツは追って来ていない。彼女は、二冊の本を持っていた。
自分を見る。本を二冊持っている。きっと顔はぐちゃぐちゃになっていて、見るも無惨な程無様だろう。
それでも、生きることを祝福されているように感じた。
「福音が聞こえてきそうさ!」
新たな自分が、この世界に、現実に。産声を上げたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます