第8話 呪い、呪われる者の歌

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 「………う。」


 ビチェ、ペチェ、ベチャ。


 吐いた。吐瀉物がさらに腹の底から来る。


 ベチョ、ピチュ、ベチャア。


 自身の生い立ちを知り、生まれてくるべきじゃなかったと言われた意味を知った。まさにその通りだ。


 若い女性は、俺の義理の母親だろう。そしてその妹と母の恋人との呪われた子が俺だ。


 「…気持ち悪い」


 何が愛だ。どうしようもなく歪み、愛憎と成り果てた結末がこれなのか。


 「なんで、俺は……」


 惰性で歩みを続ける。


 彼女との会話を思い出す。いや、思い出すには頭が曇りすぎている。


それでも。



         8



 道中、来た道が精神的部分であるアイツが活発になったのか、塞がれていた。


それに伴って道を進む。アイツのしつこさも、活発になったからかさらに磨きがかかっていた。


 「コロス、モラウ、チョウダーイ!!」


 精神がああして壊れたのは現実の俺の責任だ。もしくは、ああなって神と一体化しようとする運命にあったのかも知れない。


 このまま、運命に身を投げてしまおうか?もう無理して帰る必要も、無いんじゃ無いか?


 もう、彼女がどうしてここに来たのか聞くのも、面倒くさいな。


 「……ははっ。」


 乾いた笑いが宙に響く。いや、頭に響いた。アイツが近づいた、その時。


 「何してんのよ!」


 そこには彼女が居た。向かいの扉から出て来たようだ。


 「なに突っ立ってんの!早く!」


 「俺はもう、動けないさ。だって…」


 だってもう、現実に帰る必要性がない。帰っても、本当に帰る場所が無いのだから。


 「自分の過去がなによ!まだ生きたいんじゃないの!?」


 なんで、そのことを…


 「あんたは、関係ない!何も呪われてなんかいない!祝福されるために、生まれてきたのよ!」


 どうして、どうして。


 君はどうして。


 今一番欲しかった、生きている中で欲しかった言葉を、こんな俺にくれるんだ。


 「ノロワレタコ……イムベキコ!!」


 アイツの言葉がはっきり聞こえる。もう距離は近い。


 でも。


 「くぅぅ……うあぁあんああぁ!!!」


 泣きながら、無様に。生きるために走り出した。


 彼女が居る。向かいの扉には意外にも距離があった。追いつかれてしまいそうだ。それでも。


 「ああっがぁぁうぁああ!!!」


 扉に、彼女目がけて走る。はしる、はしる。


 それでも生きたいと願って欲したから。


 部屋に飛び込む。扉が閉まる。

なんとか逃げ切ることが出来たようだ。


 「はあ……!はぁぁー!」


 生きてる、生きてる。

 生きてる!


 「どう?今の気分は?」


 周りを見た。アイツは追って来ていない。彼女は、二冊の本を持っていた。


 自分を見る。本を二冊持っている。きっと顔はぐちゃぐちゃになっていて、見るも無惨な程無様だろう。


それでも、生きることを祝福されているように感じた。


 「福音が聞こえてきそうさ!」


 新たな自分が、この世界に、現実に。産声を上げたのだ。

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