第83話 悪役貴族、奴隷たちの実情を知る




「人手が足りぬ!!」



 俺はドラウセン領の空中要塞化に難儀していた。


 その理由は、単純な人手不足である。


 いくらお祖母様という一人で何百倍もの働きができるチート人物がいても、人である以上限界はあるのだ。


 ……やっぱり、あれを作るか……。



「あー、コホン。皆、よく集まった」



 俺は街の中央にある三百人そこらが入る集会場に奴隷たちを集めた。


 その奴隷たちに、ある魔導具を配る。



「ボス、なんなんだこの手袋?」



 魔道具を配り終えたハガネが戻ってきて、壇上に立つ俺へ問いかけてくる。


 その横では、コハクが呆然と手袋型の魔導具を見つめていた。


 どうやらコハクの方は気付いたらしいな。



「これは俺の血統魔法である造形魔法を付与した手袋だ。こいつがあれば、お前たちも俺と同じ魔法を使えるようになる」


「「「「「「!?」」」」」」



 誰もが絶句した。そりゃそうだ。


 血統魔法は門外不出、また正統な血筋を継承していなければ使えない秘術のようなもの。


 それを誰でも使えると言われたら、驚きもするだろう。



「こいつを使って、お前たちにも作業を手伝ってもらいたい。ああ、俺が命令したもの以外に作ろうとすると爆発するから気を付けろ」


「「「「「「!?」」」」」」



 今度は別の意味で目を剥く奴隷たち。


 その他にも造形魔法を付与した旋盤などを用意し、手先が不器用な者でもある程度は物を作れるようにする。


 これなら単純な生産能力は倍近くなるはずだ。


 お祖母様も大量の分身を生み出すのは疲れると言っていたし、これで多少は負担が減るだろう。



「割り振るぞ。百名は農地開発に必要なものを作れ」



 農地開発に必要なもの。


 鉄鍬やら何やら色々と必要だろうが、トラクター等の機械もいつかは導入したい。


 その時のために造形魔導具を使い慣れておいてもらおう。



「もう百名で街に必要なものを作れ」



 ナイフやフォークのような日用品を始め、家造りそのものにも造形魔導具は使えるし、役に立つ場面はあるはず。


 いずれは簡易水道や下水道も作りたいしな。



「残り百名は俺の下で魔物退治に使う魔導具を作ってもらう」



 具体的にはラ◯ュタの雷とか、大型の硬い魔物も容易く貫けるようなもの……。


 撃◯槍とか、滅◯砲とか作りたい。


 万が一、ワイバーンのような小型の飛べる魔物が襲ってきた時のために対空迎撃砲を作っておくのも良いかも知れない。


 いや、対空迎撃砲はガトリングガンを各地に固定しておけば十分だろうか。



「何か意見は? 無いか? 無いな。なら行動に移せ。以上」



 奴隷たちは俺の命令に逆らえない。


 基本的に闇奴隷だからな。命令に逆らえば死ぬというのもあるだろう。


 だからどんなに嫌でも俺の命令には従わざるを得ない。


 ……そのはずなのだが……。



「なんで皆、俺の命令に喜々として従うんだ?」



 奴隷たちはあれやこれやと楽しそうに会話しながら、俺の渡した造形魔導具の使い方について語り合っている。


 とても酷使されている奴隷たちがするような表情ではないと思うのだ。


 いや、別に積極的に酷いことをしようと思っているわけではないが。

 毎日毎日働かせていて、休みとか無いし、もう少し不満があっても良いと思う。



「カティア、なんでか分かる?」


「……」



 近くにいたカティアに理由を訊いてみる。


 するとカティアは「私に訊かれても困る」みたいな顔をした。


 そうそう、少なからずそういう顔をする奴がいても不思議じゃないだろうに。



「……おそらくは、皆が現状に不満が無いからかと」


「不満が無い?」



 ちょっと理解するまでに時間がかかった。



「……ご主人様は、奴隷たちの今よりも前の生活をご存知ですか?」


「いや、知らん。欠片の興味もない」


「……奴隷たち、いえ、闇奴隷の扱いは最悪です。何をしようとも、罪には問われませんから」



 カティア曰く、俺のもとに来る前は理由もなく暴力を振るわれたりすることがあった奴が何人もいるらしい。


 親に売られたり、拐われたり、闇奴隷になるに至った経緯が大変な者もいるとのこと。



「……例外なく、誰もが辛い経験をしています」


「それがなんなんだ? まあ、現状はそれよりもマシだとは思うが」


「……マシどころではない、かと」



 カティアが首を振る。



「温かい食事が毎日三食、労働時間は日が昇ってから沈むまで、お風呂にも入れて、清潔なトイレを使えて、ふかふかのベッドで眠れる……」


「でも休日とか無しだぞ? 給金も無しだぞ?」



 自分ではあまり言いたくないが、かなりブラックだろうに。



「……必要無いのかと。私個人の意見ですが、休日とか何をすれば良いか分からないですし、お金があっても使い道が無いですし」


「えぇ、そうなのか?」


「……はい。それに、ご主人様は真っ当な理由があれば奴隷の要求にも可能な限り応えてくれますし」



 まあ、真っ当な理由があればな。


 この前、高所で作業していて落下し、死んでしまった奴隷がいた。


 そいつはどこからともなく現れたサリエルの蘇生魔法ですぐに生き返ったが、高いところが苦手になってしまい、作業場を変えて欲しいと言ってきたのだ。


 そりゃ高いところから落ちて死んだら高所が苦手にもなるだろうと思って、作業場を変えてやった。



「……ふむ。そう考えると、うちって意外と優良物件なのか」



 まあ、奴隷たちに不満が無いならそれで良い。


 俺としても高い金を払って得た奴隷たちが簡単に潰れたら困るしな。


 ストレスは健康の天敵だ。


 そのストレスをあまり感じていないなら、それに越したことはない。



「よし、俺も作業するかあ」



 相手は魔王率いる魔物の軍勢だ。


 フレイヤの話だと大型の魔物も確認されてるらしいし、気合を入れないとな。






――――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント奴隷たちのクノウへの評価

時々頭おかしい行動するけど、基本的には温厚で頼れる人。周りに女の人が多いため、誰と付き合っているのか度々論争が起こる。



「ブラックなのかホワイトなのか分からん」「怪我人が出たらどこからともなくサリエルが来るの草」「面白い」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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