第64話 悪役貴族、神聖教国に向かう





「ちょっとそのハゲ魔族の首、獲ってくるね♪」


「ちょっとコンビニ行ってくる、みたいなノリで言うな」



 現在、俺は馬車に乗って数十人から成る護衛部隊と共に神聖教国の聖都に向かっていた。


 馬車は中に十人は乗れるような大型馬車で、教国では要人を護衛する際に使われる、魔導具の一種らしい。


 見た目は普通の馬車と変わらないが、中は結構広くて座り心地もいい。


 レルドが教国からの依頼で設計&付与を行ったものらしく、端々に彼の癖が見られたので、間違いない。


 ざっと解析してみたところ、空間魔法なる魔法が付与されていて驚いた。


 空間魔法は何年も前に失われた血統魔法。


 血統魔法を継承した一族の当主が、誰にもその使い方を教えず不幸な事故で死んでしまったものらしいが……。



「うーん、駄目だ。やっぱり解析できない」



 俺は帝都でハゲ魔族、リネットの傀儡魔法を解析し、転写付与で模倣してみせた。


 しかし、全く分からん。


 これが空間魔法だからなのか、それとも血統魔法だからなのかは分からないが、少し悔しいというのが本音だ。


 空間魔法が使えたら色々便利だったんだけどな……。



「ところで、クノっち。あたしも来て良かったの?」


「うん? あー、まあな。イオリには唐辛子を沢山売ってもらったし」


「クノっちのためだもーん♪ 本当ならお金だって要らなかったのに」


「いや、流石にそれは悪いだろ」



 クラスター唐辛子エキスは我ながら素晴らしい兵器だった。


 今後はスライム弾を改良した唐辛子スライム弾をメイン武装にしようかと思ってるくらいだ。


 目に当たってもちょっと失明するくらいで済むし、命を奪うよりは遥かにいい。



「あ、でもクノっち。少し聞きたいんだけどさ」


「なんだ?」


「連れてく面子、多くない?」


「……やっぱり多いかな?」



 馬車の中には結構な人数が乗っている。


 俺は馬車の中で将棋に興じている面子をちらっと見た。



「あ、あの、ハガネくん。王手、です」


「ぐぬぬぬ。アヤノ、強すぎじゃねーか?」


「意外すぎて怖いのです」


「んへ、ふへへへ、こ、こう見えても、将棋とかチェスは昔から得意で。つ、次はウェンディたそもや、やる? わ、私が手取り足取り……ぐへへへへへ」


「遠慮します」


「ウェンディ、そんな、まるでゴミを見るような目でアヤノさんを見るのは……」


「だ、大丈夫です、フェルシィさん!! 推しからゴミを見るような目で見られるのはご褒美ですから!! ね、カティアさん!!」


「……私には、分からないです」



 綾乃、ハガネ、ウェンディ、フェルシィ、カティアというジャガーノートに搭乗していた面子は全員揃っている。


 そこに加えて。



「む!! この菓子とやらは美味しいな!!」


「綾乃はん、なんで麩菓子の作り方なんか知っとんねん(日本語)」


「ご主人様。このお菓子、甘くて美味しいです」



 クエリア、マリア、コハクの三人もいる。


 クエリアは「聖都!! 何か美味しいものがありそうだ!!」という理由で付いてきた。


 ばいんばいん揺れるクエリアの乳房を殺気のこもった目で睨むマリアは、転移魔法でドラーナ領に手紙を届けてくれたりしたからそのお礼。


 コハクは……うん。


 ハガネがどうしても連れて行きたいと言ったから連れてきた。


 もしかしたら聖女の治癒魔法でコハクの視力を治してもらえるかも知れないしな。


 ただ一つ気になるのは。



「コハク。お前、本当に目が見えてないんだよな?」


「はい。でも、マーサさんから戦闘技術を学んでお陰か、人や物の気配が以前にも増して分かるようになったんです」


「……お前までバーサーカーになるなよ」


「?」



 コハクがこてんと首を傾げる。


 マーサさん、か。


 あの人には色々と感謝してるが、ウェンディをバーサーカーにしたりするから信用できない。


 俺はコハクの頭を撫でながら思った。


 すると、それを見ていたイオリが俺に真顔で問いかけてくる。



「ねぇ、クノっちー。この中で一番クノっちの好みの女の子って誰?」


「……いないかな」



 強いて言うなら綾乃やクエリアだが、綾乃はすぐゲロビ撃つし、クエリアは食べることしか考えてない。



「ふーん。つまり、全員が同じラインにいるってわけかー。よし♪」


「……なんだ?」


「クノっちを誘惑中♪」



 イオリが俺の腕に抱きついてきた。痛い痛い。


 しかし、俺はほのかな柔らかさを感じて、思わず動揺してしまう。


 ゲームでの女主人公のキャラデザを知っている俺は、いずれ大きくなることは分かっているが、しっかり成長していた。


 このまま行けば、数年後にはバインバインになるはず。


 大人っぽくなったイオリを想像して、俺はふと思った。


 ……有り、だな。



「何をしてるんですか、イオリさん」


「んー? 何って、ウェンディちゃんのお兄ちゃんと仲良くしてるだけだよー?」



 俺とイオリの様子を見守っていたウェンディが声をかけてくる。

 どこからか「がるるる」という効果音が聞こえてきそうな様子だった。


 殺気というか、覇気が溢れている。一体どうしたのだろうか。


 すると、ウェンディがイオリとは反対側の俺の腕に抱きついてきて、ぐいっと俺を引っ張った。


 凄いパワーだ。



「お兄様に近づかないでください」


「えー? なんでー?」


「なんでもです!!」


「あ、わかった♪ ウェンディちゃんもお姉さんにギュッてして欲しいんだ♪」


「ち、違います!!」


「遠慮しないで!! ほら、ギューッ!!」


「わぷっ」



 イオリが俺から離れ、今度はウェンディを抱きしめる。


 最初は抵抗するウェンディだが、意外なイオリの膂力に諦めたのか、されるがままになってしまう。


 数分後に解放されたウェンディは一言。



「お日様の香りがしたのです……」



 と、ぽわぽわした様子で言った。


 まあ、イオリって近くにいると分かるけど、いい匂いがするからなあ。


 女の子らしい匂いというか、ふわっとした優しい匂いがする。


 なんて考えていた時だった。馬車が急に停止したのは。



「何かあったのかな?」



 イオリがそう呟くと同時に、御者台に座っていた神聖教国の騎士が俺たちの下に報告に来た。



「失礼します、ドラウセン子爵様。前方で我が国の国章を掲げた馬車が賊に襲われているようなのです。数名の護衛をそちらの救援に向かわせてもよろしいでしょうか?」


「別に構わな――あー、すまん。うちの奴らも二人くらいやりたそうにしてるから連れてって」


「え? あ、は、はい!! ご助力感謝します!!」



 ちなみにやりたそうにしていたのはウェンディとイオリだ。


 さっきは仲が悪そうな二人だったけど、こと戦闘狂という意味では似た者同士。


 二人共そこらの賊にどうこうされるような強さではないので、大丈夫だろう。


 それにしても、神聖教国の国章を掲げる馬車を襲うとか、賊も勇気があるなあ。

 神聖教国そのものに勝てる算段が無かったら、俺なら絶対にやらない。


 それから数分後、ウェンディとイオリは瞬く間に賊を制圧した。


 そして、襲われていた馬車から聞こえてきたのは。



「あはんっ♡ 素敵っ♡ こんなにもかわいい子たちがいるなんてっ♡ 安心してっ♡ 今日から私が皆のママよっ♡」


「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」



 その場にいた全員が絶句してしまう程の、新手の変態的な美女が乗っていた。






――――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイントイオリ設定

お日様の匂いがする。ウェンディ曰く、嗅ぐと心が洗われるらしい。



「イオリを牽制するウェンディ可愛い」「抱きしめて撃退するイオリ強い」「また癖の強そうなのが来た」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る