第5話 悪役貴族、造形魔法を付与する





 翌日。


 俺は畑仕事に向かわず、自室に籠もって作業していた。

 ここ最近のことで母上から叱責を受けたが、創作意欲というものは無限に湧いてくる。


 残念ながら、俺という人間はその欲に抗うことができないタイプらしい。



「お兄様、今度は何を作っているのです?」



 多分、何でも知りたがる年頃なのだろう。


 勉強を終えたウェンディが、俺の部屋に入ってきて散らかっているテーブルを覗いてくる。



「あー、えっと、これは、なんて説明しようかな」



 まさか幼い子供に、人を殺すための武器を作っているなどと説明できるわけがない。


 武器と聞いて、日本人は何を想像するだろうか。


 日本刀? それはロマンがあるけど、俺が作っているのは現代最強と言っても過言ではない兵器である。


 そう、銃だ。


 と言っても、精密な加工技術が無い以上、シンプルな上に雑な構造になる。


 鉄の筒に持ち手が付いただけの、ただの杖にしか見えないような銃だ。

 マシンガンなんて夢のまた夢だ。


 工夫を凝らしたのは弾丸の方である。


 ビー玉くらいの大きさの鉄の玉に爆裂魔法を付与したのだ。


 引き金を引くと、その鉄の玉に魔力が流れる仕組みで、威力は申し分ない。

 ただまあ、暴発の可能性が高いから、要改良だけどね。


 っと、いかんいかん。


 ウェンディにどう説明するか、だったな。ここは適当に誤魔化すか。



「完成してからのお楽しみ、だな」


「もう、お兄様のいじわるっ。……私に手伝えることはないですか?」


「うーん、付与魔法と造形魔法が必要な作業だからなあ」



 母上の血を引く俺にしか、付与魔法や造形魔法のような血統魔法は使えない。

 こればっかりは血筋の問題なのでどうしようも無いのだ。



「むぅ、私もお兄様のお役に立ちたいのに」


「十分役に立ってるよ。主にモチベーション的な意味でね」



 可愛い妹に作業を見られてると、やたら効率的に作業できるからな。



「あーあー、私も血統魔法を使ってみたいです。そしたらお兄様と一緒に物作りができるのに」


「ははは、それは流石に……流石に……」


「お兄様?」


「……」


「お、お兄様? お兄様!! お顔が変なことになってます!!」



 なんで、なんで俺は気付かなかったのだろうか。


 あるじゃないか。


 誰でも魔力を流せば魔法を使えるようになる、母上の血族にしか使えない魔法が。



「そうだ、その手があったか!!」



 血統魔法だって、立派な魔法だ。付与魔法の効果対象である。


 俺は早速、造形魔法でヘラを作った。そのヘラに付与魔法で造形魔法を付与する。



「……これなら」



 俺はヘラに魔力を込めながら、素材として確保しておいた鉄球を軽く撫でた。

 すると、鉄球はバターのように「ぐにゃり」と形を歪めてしまう。



「は、ははは、予想がドンピシャだ」



 今までは手で直に捏ねくり回す必要があった造形魔法が、道具を介して使えるようになった。


 加工技術が、確実にワンランクアップする。


 造形魔法を付与した道具で金型を作れば、必要な部品を量産することも可能だろう。


 魔力駆動二輪車バイクの改良も捗るはずだ。


 ん? 待てよ? 造形魔法が付与できたなら、もしかして。



「もしかして……付与魔法も……?」



 付与魔法を物に付与すれば、誰でも付与魔法を使えるようになるんじゃないだろうか。

 もしできたなら、魔法を付与した剣や鎧を大量生産できるようになるのでは?



――考えて、ゾッとした。



 魔導具化した武具は貴重な上、弱兵をお手軽に強くできる。


 ……付与魔法で付与魔法を付与するのは、やめておいた方が良いだろう。

 今まで誰もその可能性に気付かなかったのは奇跡だな。



「お兄様? どうかなさいましたか?」


「いんや。ウェンディの一言で悩みが一つ解決した!! 最高に良い気分だ!!」


「? よく分からないですけど、お兄様がお喜びなら私も嬉しいです!!」



 うちの義妹はやっぱり天使だった。

 それも多分、幸運を呼び込むタイプの天使である。



「そうだ、ウェンディに何でも作ってプレゼントしてあげよう!! 何か欲しいものはないか?」


「ふぇ? うーん、急に言われても……」


「ほら、ドライヤーの時みたいに困ってることとかないか?」


「あっ!!」



 お、どうやらあるみたいだな。



「私が欲しいものじゃないですけど、マーサさんが困ってたことがあります!!」


「マーサさんが?」



 マーサさんというのは、屋敷の掃除や洗濯、炊事を一人で担っているお手伝いさんの老女だ。


 今年で七十という、治癒魔法に頼らない医療技術が微塵も発達していないこの世界ではビックリするくらいの長寿だ。


 しかし、未だに現役でバリバリ働きまくっているおばあちゃんである。



「実はマーサさん、最近水仕事で手荒れが酷いって言ってたんです。特にお洗濯が辛いって」


「……ふむ」



 この世界に洗濯機なんて無い。


 洗濯板で必死に擦って汚れを落とすのが、この世界では当たり前だ。


 よし、いっちょ作りますか!!



「ちょっと待っててくれ。えーと、モーターを使って……どうせなら脱水機能が欲しいな。よし、ここはレトロなローラー付き洗濯機にしてっと。ついでに乾燥機能もドライヤーと同じ要領で取り付けたら……」



 ものの十数分で、物は完成した。



「てれてれってれー、ローラー付き洗濯機ぃ」


「お兄様、これはどう使うのですか?」


「まあ、見てな。まずはここのスイッチを押しながら魔力を流す」


「わっ、水が出てきました!!」


「あとはもう一つのスイッチを押すと、モーターがブンブン回って中の物をめちゃくちゃ回転させる!! 汚れも落ちる!! 多分!!」



 ぶっちゃけどのくらいの勢いで回せば汚れが落ちるのか分からなかったので、とにかく高速回転するように作った。


 その後、ウェンディがマーサさんを呼びに行き、洗濯機をプレゼントする。


 マーサさんはたいそう驚いていた。


 これでマーサさんの手荒れも、少しはマシになるだろうか。


 ……後日、聞いたことだが。

 モーターの回転が速すぎて洗濯機が暴れ狂ったらしい。


 マーサさんからとても申し訳なさそうにリテイクを要求された。


 次からは誰かに渡す前に、入念なテストをしておこう。


 爆発でもしたら一大事だからな。











 数日後。


 猟師と共に森に棲み着いた野犬の駆除をしていた父上が、慌てた様子で屋敷に帰ってきた。



「まずいことになった!! 近くの森にゴブリンが集落を作っていやがった!!」


「な、なんですって!!」



 書類整理していた母上が、額に汗を浮べながら悲鳴のような声を上げる。


 ゴブリン。


 緑色の小さな悪魔の脅威が、ドラーナ領へと迫るのであった。







――――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイントどうでもいい設定

マーサさんは領内で一番腕っぷしが強い。屋敷の警護も兼任している。


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