第10話 悪役貴族、ガン見する





「きゃあああああああああああああああああああああああああッ!!!!」


「父上!! スピードスピード!! 女の子も乗ってるんですよ!!」


「ヒャッハァーッ!!!! オレは風だあ!!」



 俺はサイドカーで膝の上に女の子を乗せながら、父上に怒鳴っていた。


 最初は俺の膝に座ることを躊躇っていた女の子も、魔力駆動二輪車改が走り出してからずっと悲鳴を上げている。



「な、ななななななんなのですか、これは!?」


「と、取り敢えずこの乗り物のことは誰にも言わないくださいね!!」



 まあ、馬でもない自走する乗り物の存在を語ったところで誰も信じないだろうが。


 念のため口止めをしておく。


 見るからに良家のご令嬢だし、下手に彼女が広めたら信じる人も出てきそうだからな。



「わ、分かりましたから!! 分かりましたからもっとゆっくりぃいいいいいいッ!!!! うっぷ、気持ち悪い……」


「え、ちょ、乗り物酔い!? 父上!! 停めて!! 早くバイク停めて!!」


「ええ!? なんだって!? 風でよく聞こえん!! わはははは!!!!」


「ええからいっぺんバイク止めろ言うてんねんブチコロスぞッ!!!!」


「おぇええええッ!!!!」


「ぎゃあ!?」



 結局、父上はノンストップで王都の近くまで走り続けるのであった。



「お、お見苦しいところをお見せしました」


「父上、今回のことは帰ったらきちんと母上に報告しますから。しばらくバイクを乗り回すの禁止だと思ってください」


「は、はい、すみませんでした」



 王都まで歩いて行ける距離にまで移動し、俺たちはバイクを降りた。

 バイクを魔法袋に入れ、そこからは歩いて王都まで向かう。


 俺の膝の上で吐いたことを気にしているのか、女の子は常に申し訳なさそうだった。



「えっと、気にしないでください」


「ほ、本当に申し訳ありません。うぅ、もうお嫁さんに行けません……」


「あー、そう、ですか」



 思わず何も言えなくなる。すると、父上がこっそり耳打ちしてきた。



「息子よ。そこは『自分が嫁にもらう』の一言を言うとモテるぞ」


「お前まじで一回黙れ」


「あ、ハイ。……年々、カリーナに似てくるなあ」



 大体、そんな無責任なこと言えるか。


 女の子が着てるドレスは、ドラーナ領という田舎で育った俺でも知ってるような有名店のオーダーメイド品だ。


 最低でも伯爵、下手したら公爵クラスの貴族令嬢かも知れん。


 男爵家の長男では釣り合いが取れない。



「ところで、嬢ちゃんの名前は? オレぁ、アスラン・ドラーナ。こっちは息子のクノウ・ドラーナだ」


「あ、も、申し遅れました、わたくしは……今はエレとお呼びください」


「了解。エレ嬢ちゃん、自分の家の場所は分かるか?」


「あ、えっと、はい。ですが、取り敢えず王城まで連れて行って下さい。そこでお母様が働いていますので」



 王城勤めの母親って、まじで公爵家の可能性が出てきたぞ。

 この世界では実力があれば、男女関係なく高位の職に就けるからな。


 男女平等を謳う時代に作られたゲームの世界観なだけはある。


 そうこうしているうちに俺たちは王都に到着。


 俺と父上は身分証を提示して、エレは紋章が刻まれたメダルみたいなものを見せていた。


 兵士がそのメダルを見て驚いていたようだが、あれは何だったのだろうか。

 その様子を横で見ていた父上も同様に、目を見開いていた。



「そうか、どっかで見たことあると思ったら……」



 と父上が呟いていたので、知り合いの娘だったのかも知れない。

 父上は傭兵時代、爵位を得る前から多くの貴族と仕事関係で顔を合わせていたからな。


 そういうことは無きにしもあらずだ。


 俺と父上はエレを王城まで送り、エレが兵士に事情を話して城へ入る。


 本来なら正式な手続きが無いと入れないはずだが、それだけ彼女の親が地位のある人物なのかも知れない。


 むっふっふっ、これはもしかしたらお礼とか期待してもいいんじゃない?



「父上、もし謝礼金を貰えたら、母上たちにお土産を沢山買って帰りましょう」


「……謝礼金、で済むと良いなあ」


「え? どういう意味です?」


「明日になれば分かるさ」



 こうして、その日は宿を取って王都を観光することになった。

 父上と武器屋を見に行ったり、有名な料理店を回ったり。


 王都というものを結構堪能したと思う。


 食事に関しては……うん。

 まずくはないけど美味しくもないって感じだったかな。


 嬉しかったのは魚醤や酢などの調味料が売っていたことだ。

 剣と魔法のファンタジーな世界でも、ここら辺は日本的だったから嬉しいね。


 そして、翌日。


 俺は父上の後ろについて歩くように登城するのであった。









「面を上げよ、アスラン」


「はっ」



 豪華絢爛という言葉がピッタリな装飾が施されている謁見の間。

 天井にはシャンデリアがあり、窓にはこの世界では非常に高価な透き通ったガラスが使われていた。


 流石は王城と言ったところか。


 ここだけ文明レベルが少しだけ高い。

 まあ、現代日本を知っている俺からすれば、ほんのちょっぴりの差でしかないが。


 っと、いかんいかん。


 頭を上げていいと言われたのは父上だけだ。俺は慌てて頭を垂れ直す。


 この場には国の重鎮やその護衛の騎士たちが多くいるのだ。

 あまり失礼な真似はしないようにしないと。



「久しいな」


「女王陛下に置かれましては、ご壮健そうで何よりです」


「ふふっ、貴様に敬語を使われるのは気持ち悪いな」



 それにしても、この国の王様って女王だったのか。

 さっき顔を上げた時にちらっと見たが、めちゃくちゃ美人だったな。


 しかし、女王と親しげに話す父上って実は凄い人なのでは?


 ……いや、仮に凄い人でも、下半身にだらしないなら減点だよな。うん。



「して、先程からそわそわしている小さいのが貴様の息子か。どれ、顔を見せてみよ」


「は、はい!!」



 俺はゆっくりと顔を上げた。


 そして、さっきちら見しただけでは気付かなかったことに気付く。



――でっか!!



 女王陛下は、とても大きな女性だった。


 父上よりも少し低いが、身長は多分180cmに届くか届かないかくらいだろう。


 何より大きいのは、その胸だった。胸部の装甲が大玉スイカ並みにデカイ。

 そのスイカ装甲を見せつけるような胸元が開いたドレスは、青少年の教育に悪そうだった。


 あとやっぱり凄い美人。


 髪は綺麗な黄金色で、窓から差し込む太陽の光を反射して美しく輝いている。


 瞳も透き通った綺麗なアズール色で……。


 あれ? つい最近、似たような人を見たことがおるような気がする。



「余はフレイヤ・イース・フォン・ガルダナキア。ガルダナキア王国の女王であり、そなたが仕える君主だ」



 おお、この人がフレイヤか。


 そう言えば『ファンタジスタストーリーズ』では名前だけちらっと出てきてたな。


 フレイヤには二人の娘がいて、その一人が魔王の配下に連れ去られてしまうんだ。

 その娘の居場所を探そうと躍起になったフレイヤは、娘が魔王の配下となった騎士に連れ去られたと突き止めるものの、体調を崩してしまい、そのまま崩御。


 残ったもう一人の娘が王座を継ぎ、数年後に主人公が勇者として覚醒すると「姉様を魔王から救い出して!!」と頼み込むのだ。


 ゲームでは既に亡くなっている人物だからか、クノウ同様キャラデザは無かったのだが……。


 まさか、こんなにデカイ人だとは!!



「くっくっくっ、流石はアスランの息子だな。自己紹介もせず余の胸ばかり見るとは」


「あっ、も、申し訳ありません!!」



 たしかに、ちょっとガン見しすぎたかも知れない。

 俺は謝罪してから、自己紹介した。



「クノウ・ドラーナです。陛下に拝謁できたこと、恐悦至極にございます」


「……ほう、礼儀作法はしっかりしておるな。アスランではなく、カリーナ仕込みか」



 あれ? フレイヤは母上とも知り合いなのか?



「まあよい。さて、アスラン。ゴブリンキングの件について話を聞こう」


「はっ」



 父上がゴブリンキングについて話し始めた。


 俺の役割は何もない。


 あくまでも女王へ報告に来た父上にくっついているだけの子供。


 国のお偉い様に顔を覚えてもらうために来ただけなので、俺は黙って父上がフレイヤに詳しい内容を報告する様を横で見ているのであった。









――――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント主人公設定

主人公は巨乳&歳上好き


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