第80話 悪役貴族、高笑いする





 クラーケンを討伐し、海底に眠っていた大量のヒヒイロカネを回収。

 例のものを作るのに必要なヒヒイロカネの量をゲット。


 それから二年の月日が流れた。


 適宜に奴隷を増やし、建物も次第に増えて、領民五百余名が奴隷という不思議な街がドラウセン領に誕生した頃。 



「ふふっ、ふはははははははっ!!!!」



 ドラウセン領の中心で、俺は高らかに笑った。


 目の前にはオリハルコン製の大きな台座があり、その台座に収まる形で正八面体のヒヒイロカネの塊が置いてある。


 俺はこの正八面体のヒヒイロカネを『緋光石ひこうせき』と命名した。


 ヒヒイロカネは日中に光を吸収し、それを魔力に変換して夜間に緋色に輝くという性質があるからな。


 まあ、この名前にはもう一つの意味がある。


 俺は旧アトラルタ帝国の皇子、アルトリウスの血統魔法である浮遊魔法を緋光石に転写付与する。


 一度見せてもらったからな。


 前に聖都で足を切断した際、俺は錬想造形や転写付与の感覚を掴むことができた。


 ……たまに失敗するがな。


 それでも今の俺であれば、高確率でそれらを成功させることができる。



「よし、成功だ。ついに、ついに完成したぞ!!」


「あ、あの、クノウさん? 一人でブツブツ喋ってるの怖いですよ?」



 様子を見に来た綾乃が怯えながら言う。その隣にはクエリアの姿もあった。



「クノウ、これは何なのだ?」


「え? 気になる? 気になっちゃう? どうしよっかなー、教えちゃおっかなー?」


「う、鬱陶しい。珍しくクノウさんが鬱陶しいです!!」



 ニヤニヤが止まらない。


 それくらい、今回俺が作ったものは最高にテンションが上がる代物なのだ。



「領民は全員中央街にいるよな?」


「あ、はい。言われた通りに、旧ドラーナ領の人たちも集めました」


「くっくっくっ。領境に人がいないことも確認したな?」


「それも、一応は。でも、本当に何をするつもりなんですか?」



 俺は『緋光石』の魔力を解放し、付与した浮遊魔法を起動する。


 すると、大地が激しく揺れた。



「あの地平線〜♪ 輝くのは〜♪」


「え? あ、え? も、もし、もしかして、これって!?」


「アヤノ? この地震が何か分かるのか?」


「いや、え!? う、嘘ですよね!? そ、それは流石にないですよね!?」



 何を作ったのか気付いた綾乃が騒ぐ横で、俺はただ高笑いするのであった。














 ガルダナキア連邦の首都、その中央にある王城では今、女王フレイヤを中心とした重鎮たちによる会議が開かれていた。


 議題は近頃活発な動きを見せている魔族たちへの対策についてだ。



「前年と比べて魔族や魔物による被害が倍以上になっているな……」


「特に魔族の動きが厄介ですな」


「狙われるのは農村や小さな街ですが、確実な被害を出しております。局所的とは言え、このまま放置していては悪化する一方かと」


「分かっておる。兵の数を増やしたいところだが、そうなると民の負担が大きいな。地方の領主たちに兵を出させるか?」


「いえ、領主たちには自領の守りを固めさせるべきかと。下手に兵を出させて不満を抱かれては、今後の統治にも関わりますからな」


「うーむ」



 会議は着々と進み、やがて兵士たちの装備についての議題に移る。



「銃の量産体制はどうなっている?」


「順調ですぞ。旧帝国の技術者のお陰で火薬の量産にも成功しましたし、年内にはマスケット銃を全兵に配備できるかと」


「よし。既存の部隊との連携についても、軍の参謀連中と話を詰めておけ」


「銃兵の登場で戦争が変わりましたからな。承知しました」



 フレイヤがふと思い出したように、軍を管理している軍務大臣に問う。



「防壁の改築についてはどうだ?」


「帝国から徴収した大砲を改良した、大型固定砲を十二門ほど取り付けましたが、こちらは少々問題が」


「なんだと?」


「その、技術者の中に二年前の帝国との戦争に兵として参加していた者がいたらしく、ジャガーノートを見たことがあるそうで……」


「ふむ、それがどうしたのだ?」


「その技術者が『こんなのちっとも大型じゃない!! もっとデカく強くするぞ!!』と暴走しているらしく……超大型固定砲の開発予算を寄越せと言ってきているのです」


「そ、それは……むぅ。いくら大国とは言え、兵器開発に回す金もタダではないからな……。検討するよう伝えてくれ」


「承知しました」



 会議が一段落した、ちょうどその時だった。


 兵士の一人が慌てた様子で会議室に駆け込んで来たのは。



「ほ、報告します!!」


「どうした?」


「た、たった今、ホロウヴィル共和国から使者が参りまして、その……」


「ホロウヴィル?」



 ホロウヴィル共和国とは、帝国の属国となっていた小国の一つだ。


 今ではホロウヴィル共和国は独立し、ガルダルタ連邦と友好的な関係を築いている。


 そのホロウヴィルから急な使者の来訪だ。


 フレイヤは何かあったのかと、伝令に来た兵士に首を傾げながら問う。


 兵士が告げたその内容は、あまりにも信じられないものだった。



「ホロウヴィル共和国が、ま、魔王を名乗る魔族によって、ほ、滅びました」


「「「「「「は?」」」」」」



 フレイヤを除く誰もが言葉を失った。



「使者殿曰く、一晩で民が死に絶えた、と。ただ一人生き残った使者殿は、この事実を伝えるために来たそうです」


「あ、有り得ん!! ホロウヴィルは小国だが、ガルダルタ製の良質な装備を輸出したのだぞ!!」


「落ち着け。その者に言っても仕方があるまい。その使者殿をここへ呼べ」


「そ、それが……」


「どうした?」



 兵士はとても言いにくそうに、口を開く。



「使者殿は、その事実を告げた後、眠るように亡くなられました。背中に大きな爪痕があって、治療の甲斐も虚しく……」


「……そうか。魔王とやらの脅威を伝えるために、命懸けでここまで来たのだな。丁重に弔ってやれ」


「はっ!!」



 兵士が退室し、重鎮たちが騒ぎ始める。



「陛下!! 恐れながら、魔王など信じられません!!」


「しかし、近年の魔族や魔物による被害の数は異常だ。本当に魔王が存在し、魔族や魔物に人を襲うよう指示をしていたとすれば?」


「ど、どのみち、本当にホロウヴィルが滅びたのかどうか、まずはその確認を急がねば」


「少数の調査隊を派遣しましょう」


「賛成ですな。同時に各地方の領主に注意喚起もしておきましょう」



 フレイヤが思考を巡らせる。



(魔王、か。エレノアを拐おうとしたケルベクや、クノウが捕まえたキトの話からして、存在することは確信していたが……。何故このタイミングで動き出した? 今や大陸最大最強の国家となったガルダルタ連邦に勝てる算段があるのか?)



 いくら考えようとも、答えは出ない。


 その時だった。さっきとは別の兵士が大慌てで会議室に入ってきたのは。



「へ、陛下、大変ですっ!!」


「今度はなんだ?」


「そ、空、空っ!!」


「……空?」


「空を見てください!!」



 兵士に言われるがまま、フレイヤを始め、多くの重鎮たちが空を見た。


 すると、太陽の光を大きな影が遮る。



「なっ……」


「り、陸地が……」


「う、浮いている!?」



 大地が空を浮遊していた。


 その場に居合わせた誰もが状況を理解できず、ただただ困惑する。



「な、なんだ、あれは!?」


「ま、まさか魔王か!?」


「ん? ま、待て!! 何か紙が降ってくるぞ!!」


「……ふむ」



 フレイヤは窓から手を伸ばし、降ってきた紙を手に取って、書かれていた内容に目を通す。


 そこには切実に願いながら書いたであろう文章で短く一言だけ。



『女王陛下へ。降りられなくなったので助けてください。転移魔法の使い手を呼んでください。クノウ・フォン・ドラウセンより』



 誰もが頭を抱えた。



「くっくっくっ、あやつめ!! またとんでもないものを作りおったな!! もう隠す気すらないではないか!!」


「へ、陛下?」


「大臣、詳しい会議はそなたらに任せた。余はちょっと遊びに行ってくる!!」


「ちょ、陛下あ!?」



 ホロウヴィルが滅びたというのに、魔王が攻めてくるかも知れないというのに、フレイヤはとても楽しそうに会議室を出て行った。






――――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント作者の好きなジ◯リ映画

ト◯ロ。


「急に歌い出すの草」「真面目な話をぶった切るスタイル嫌いじゃない」「好きなジ◯リ映画、ラピ◯タじゃないのかよ!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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