第14話 悪役貴族、殺人扇風機を作る





 王都から帰ってきた俺は、叔父ことレルドから貰った魔鉱石を使って早速便利アイテムを作っていた。



「てれてれってれー、扇風機ぃ」


「わあ!!! お兄様すごいです!!」


「クノウくん、それはどういうものなの?」



 俺はウェンディとフェルシィに扇風機の仕組みを簡単に説明をする。



「これは羽根を回すことで風を起こす道具です。これから夏が来るし、暑い日には役に立つと思いまして」


「早く使ってみましょう、お兄様!!」


「待った。少し落ち着け、ウェンディ」



 俺は扇風機を使いたがるウェンディを止めて、一端二人から離れる。


 そして、あらかじめ用意しておいた鉄製のタワーシールドを二人に構えるよう指示しておく。



「あの、お兄様?」


「クノウくん、この盾は一体?」


「お二人とも、多分きっとおそらく絶対に危ないので顔を出さないでくださいね」



 俺は扇風機に魔力を流した。


 すると、問題無く羽根がぐるぐると回る。程よい風が吹いて気持ち良い。


 俺はそこへ更に魔力を流し込む。


 扇風機の羽根がブンブン回り、やがて「ミシッ」という嫌な音が響いた。


 次の瞬間。



――パヒュンッ!!!!



 という小気味よい音が響いた。


 羽根の根元が破損したらしく、まるでフリスビーのように宙を舞う羽根。


 それは部屋の壁に突き刺さる程の勢いで、俺が母上に叱られるのが確定した瞬間だった。


 人を殺しうる扇風機、殺人扇風機だな。



「お兄様……」


「クノウくん……」


「すぅー、ふぅー」


「お兄様!! その『ま、こんなもんか』みたいな顔はなんですか!!」


「クノウくん!! 発明はとても良いことだけど、貴方が怪我をしたらどうするの!!」


「失敗は成功のもと。これって誰の名言でしたっけ」


「「話を聞いてーッ!!」」



 大丈夫だ、問題無い。


 どうせ俺のことだからな。一発で完成するとは思っていなかった。

 ここから耐久性などを見直して、また一から作り直すのである。


 何はともあれ、この平穏な日々はいつまでも続いて欲しいものだな。










 と、思っていたのに。



「ふむ。ドラーナ領は自然豊かと言えば聞こえは良いが、やはり田舎すぎるな。余の性には合わん」



 このお胸の豊かな女性を俺は知っている。


 だってお城で謁見したから。


 華やかなドレスではなく、動きやすい服装に身を包んだ女性。

 そのまとう色気にも似た雰囲気は男装の麗人と言っても過言ではなく、女性からモテそうなオーラが滲み出ている。


 彼女の名前はフレイヤ。この国の女王である。



「何故、貴方がここにいるのかしら?」



 フレイヤが我が家のリビングで寛いでいる中。


 まるでアスランを叱る時のように頬をピクピクさせた母上が問いかける。



「酷いな。それが久しぶりに会った友人への態度か?」


「本来なら会えない、いえ、会ってはならないはずの場所にいるからこういう態度なのよ」


「なに、ただの地方の視察だよ。ああ、城での仕事を心配しているのか? なら安心しろ。影武者が全てやってくれる」



 影武者の人、女王の仕事を押し付けられて大変だろうなあ。


 じゃなくて!!


 え? まじで何故ホワイこの人ここにいるの!?



「実は地方への視察というのは建前でな」


「でしょうね」


「本当はお前の息子、クノウが作った魔力駆動二輪車に乗りたくて来たのだ」


「……そう」



 ギロッと母上の目が俺に向く。


 知らんぷりしとこ。

 あとで父上がうっかり話してたことにすればお説教コースは免れるはず。


 フレイヤ、頼むから余計なことは言わないでくれ!!



「先日、エレノアに付けていた護衛が裏切ってな。エレノアが攫われそうになったところをクノウが救ってくれたのだ。その時、魔力駆動二輪車で誘拐犯を轢き殺したらしい」



 おおう!! いい笑顔で早速余計なこと言うじゃん!!



「クノウ、あとで詳しく聞かせなさい」


「……はい」



 笑顔の母上はとても怖かった。



「それともう一つ。クノウ、そなたが作ったものの中で、余に譲っても良いというものがあれば売ってくれないか?」


「え?」


「そなたが嫌がっているのは魔力駆動二輪車のような、使い方次第では戦争の在り方すら塗り替えてしまう代物だろう? ほら、何かないか?」



 うーん、急に言われてもなあ。


 ドライヤーとか洗濯機とか、試作中のものでは扇風機くらいしかない。


 扇風機は論外。

 女王の頭にプロペラが刺さったら速攻で死刑確定だろうし。


 となるとドライヤーか洗濯機だが、女王が洗濯機なんか貰っても嬉しくないか。



「じゃあドライヤーなんてどうです? 髪を乾かすのに便利ですよ」


「ほう!!」



 どうやら女王は無類のお風呂好きだったらしい。


 お城にも大きな浴場があったらしく、仕事と眠る時以外は湯船に浸かっているのだとか。


 ただ、髪が乾かなくて面倒だったそうだ。


 俺はドライヤーをフレイヤに手渡して、使い心地を試してもらう。



「これは良いな!! 是非もらおう!! いくらだ?」


「え? そうですね、お値段は……」



 一般的に出回らないものだし、作れるのは現状俺だけなわけで。

 技術料や他では手に入らない希少性等など、諸々の事情を加味すれば……。



「ざっと金貨二十枚? くらいだと思います」



 金貨二十枚は結構な額だ。


 前世では安価で手に入った代物も、こっちの世界では高価になる。


 俺は思い切り吹っかける勢いで値付けした。


 した、のだが……。



「安い。もっと高くしろ」


「え? ん? え?」


「いいか? そなたの作る道具は生活を一変するものだ。売らないものは売らないで良いが、売るものはもっと吹っかけろ。そうだな、金貨五十枚くらいで良いだろう」



 ちょ、流石にそれは高くない!?


 慎ましく暮らしたら数年は過ごせる金額だぞ!?



「さて、良い買い物もしたことだし――」


「お帰りはあちらよ」


「釣れないことを言うな。しばらくここで世話になるぞ」


「「……ふぁ?」」



 母上と同時に間の抜けた声を出してしまう。



「せっかく面倒な政務から逃げてきたのだ。もう数週間はここで羽を伸ばさせろ。なに、盛大なもてなしは要らん。……それにしてもお前たち親子は驚くと似たような顔をするな」



 あかん、この女王。ちょっとフリーダム過ぎる。






――――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント便利アイテム設定

魔力式扇風機は出力を変えると電動カッターみたいに使える。



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