第12話 それは今じゃないから

 池内直樹として生を全うして、この異世界の地でナキとして生きてはいるが、地球に……日本にいる家族、特に弟妹に関しては女神ミルラを信用するしかなくどことなく不安だったナキだったが、女神通信により家族の近況を知ることが出来た。そして日本を離れることで家族に降りかかるであろう不安の種が払拭されたことを知りナキは家族が無事に暮らしていることで、今まで感じていた不安が綺麗さっぱりと流れ去ったことが分かり歓喜の涙を流す。


 そしてひとしきり泣いた後でマリアにお礼をいい、その腕の中から離れると「話さないといけないことがあります」とマリアと子供達に対し畏まった態度で言うものだから、マリアはどことなく落ち着かなくなり、子供達もそんなマリアの様子から「もしかして……」とナキとマリアを固唾を呑んで見守る。


 そしてマリアはナキの前で膝を着き、ナキに目線を合わせると、その左手をナキへと伸ばす。


「マリア、服が汚れるから、立った方がいいよ」

「え……あれ?」

「「「え?」」」

「ん?」


 ナキの余りにも素っ気ない態度にマリアは呆気にとられ子供達も何か思っていたのと違う雰囲気を感じ取る。


「えっと、ナキ。大事な話があるって言ったわよね?」

「うん、そうだよ。僕達にとってとても大事な話だから、皆にも聞いて欲しい」

「じゃあ、やっぱり「だから、汚れるから」……え?」


 ナキの言葉に自分が考えていたことは間違いないと確信を持って『求愛プロポーズの言葉』を真摯に受け止めようとマリアが地面に膝を着こうとすると、またしてもナキに止められる。


「あれ?」

「マリア、さっきからどうしたの? 何か変だよ。座りたいのなら、ちゃんと座った方がいいよ」

「ん、違うわね。えっと、ナキ。因みにだけど……その大事な話ってのはとても大事なこと?」

「そうだよ」

「それは私……ナキも含めて私達全員に関係することかしら」

「そうだよ」

「そしてその話は今後のここでの暮らしを左右するくらいに大事な話なのかな」

「だから、そうだって」

「じゃあ、やっぱり「だから、汚れるから!」……え?」


 ナキとの会話で確信を持ってマリアが膝を着こうとすれば、またしてもナキに汚れるからと止められる。


 ここまで来ればいくら脳内のお花畑が満開だったマリアも何かがおかしいということにやっと気付くと同時に自分がしていたことが恥ずかしくなり顔が赤くなるのを自分でもハッキリと自覚する。


「「「あ~あ……」」」

「ん?」


 そんなマリアの様子とどことなくしれっとしているナキの様子から「いつもの暴走」だなと子供達は納得する。


 ナキはと言えば、マリアの様子を訝しく思いながらも皆に話さない訳にもいかないので深呼吸してから、ゆっくりと話し始める。


「えっと、僕が皆に言いたいのは……ここに調査隊が来るってこと」

「調査隊……それって誰に聞いたの?」

「知らない人が来るのか?」

「俺達はどうなるんだ?」

「つかまっちゃうの?」

「また、どれいにされちゃうの?」

「だれ?」


 いきなり身も知らぬ人が来る。しかも調査隊と言うからには一人や二人じゃないだろうとナキもハッキリしたことは分からないが、少なくとも十人以上はいるだろうと漠然と思う。


 そして分かっている範囲でマリア達の質問に答えていく。


「えっと誰からと言うのは、僕のスキル……多分、スキルでいいんだよね。うん、僕のスキルで分かった話だよ。そして、その調査隊は……伯爵領から派遣されるみたい」

「え? じゃあ、お父様が……でも、なんで? まさか、私を探しに来るの?」

「ん~それがね、ワイバーンが目的みたいなんだ」

「どうして、お父様がそれを?」

「多分だけど、あれだけ大きいと他の街でも視認出来たんじゃないかな。後、ワイバーンは災害レベルなんでしょ。なら、それワイバーンの所在をハッキリさせないと領主としては危険が消えたとは言えないんじゃないの。だから、それワイバーンがどうなったのかを確認したくて調査隊を派遣するんだと思う」

「そう、私じゃなくて……ワイバーンが目的なのね。やっぱり、お父様は……」


 マリアは父親である領主のゴリアテ・フォン・テレジアは自分を気に掛けることもなくワイバーンを気にしていることに気落ちしてしまう。同時に領主としては、奴隷として連れ去られた自分の娘よりも領民の為に目に見える脅威ワイバーンの存在をハッキリさせたいという考えも元領主の娘として理解は出来る。


 だが、ここでマリアはふと考える。あの父親は自分が奴隷として売り払われたことを知っているのだろうか、もしかしたら領都からの追放処分を受けたことまでしか知らないのではと考える。


 あの女狐ジョセフィーヌならマリアを秘密裏に確実に辱めてから処分したいだろうから夫であるゴリアテには何も告げずに独自にしていることではないかとマリアは考える。


 もし父親が奴隷落ちしたことを知ったのなら、どんなことをしてでもマリアを奴隷から解放したであろうことを思えば、益々ジョセフィーヌによる陰謀論が強くなる。


 そうでなくてもマリアはジョセフィーヌの奸計により、追放処分とされたのだから今さら疑うことは何もない。


 であるならば、父親が派遣する調査隊にマリア自身の生存を報告してもらえれば、もしかしたらと一縷の望みを抱くが「このままじゃダメね」とかぶりを振り、抱いてしまった甘い考えを振り払う。


「だって、証拠がないものね」

「えっと、マリア?」

「あ、ごめんなさい」

「ううん、それはいいんだけど……で、どうするのが一番いいのかなと相談したいんだけど」

「そうよね。じゃ、私から提案します!」


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